第305話・『獣道、何か臭い、でも人間の歩く道の方が臭い』

村へと続くこの道は人の歩くためのモノでは無い?周囲の折れた雑草から大体の身長を割り出す、獣道なのか?村へ通う獣?普通なら退治してしまうだろうに。


小さな山へと続くその道を歩きながら首を傾げる、いきなり襲われたら怖いのでユルラゥの力で空気の壁を纏う、害虫って言ってマジでごめんなさい、謝るから許してね?


脳内でぎゃぎゃー騒ぐ声が聞こえるがムシムシ、無視虫、ふふ、ファルシオンを持って来れば良かったな、あいつは肉を切断するよりも雑草を刈り取る方に向いている、辺境ではそうやって使われている。


量産品の安物の上に生活品としても使われる、しかしそれがどうした?俺のファルシオンは俺だけの愛剣だ、他と比較するような真似はしない、で、でも、熟練の冒険者が持っているような愛剣にも少しだけ憧れる。


「これは人の仕業では無いな、道具を使って刈り取って進んだ方が効率的だもんな」


『何度も引き返した後があるねェ、雨が多かったから植物の成長が早いだけでかなりのサイズだよ、この生き物」


「そうだな、潰した植物が復活しているせいで大きさを割り出しにくいけど……熊よりはデカい、熊よりデカい生き物って何だよ」


『魔物じゃ無い?』


「麒麟もいるぜ!」


『あれは聖獣、こんな所にいるわけないでしょうに、キョウは自分の一部がどれだけレアなのか少しは勉強した方が良いよォ』


「麒麟は可愛い、ソレだけではダメなのか?」


『ダメだよォ』


「キョウは可愛い、ソレだけではダメ?」


『べ、別に良いんじゃ無いかなァ』


森や林の中で生活をする大型哺乳類はある一定のルールを順守している、闇雲に自分のテリトリーを行き来するのでは無くてそれなりにコースを決めて移動する。


その理由は単純で動物のそれぞれの習性や行動時間によって餌を捕獲する場所や水を飲む場所などか決まっているからだ、そこに足を運ぶまでに出来るだけ障害物が少なく移動しやすい場所を選択する。


移動経路として優れた経路がある一方で逆に移動するのに適さない場所や移動経路として様々な障害があって使用出来ないものがあるからだ、獣の毛でも落ちていたらある程度の種類が判別出来るんだけどな。


それが魔物でも魔王軍の元幹部の知識があるから十分だ、しかし流石に歩いた痕跡だけで割り出すのは不可能、ぎゃぎゃぎゃー、ユルラゥうるせぇ、うんざりしながら強制的に抑え込む、甲高い声が大きくなる。


『蚊ね』


「ハエだぜ」


『どちらにせよ害虫だよねェ』


キョウも協力してくれるようでユルラゥの声が遠くなる、ありがとう、地面が多少とも踏み固められているので転倒の心配は無い、低木の小枝は尽く折られてしまっている、足下の下草に食われた形跡は無い、不自然に短くなったりしていれば草食動物なのになァ。


何度も執拗に踏みつけられて枯れたりしている部分もある………何度も引き返している?わからん、糞も無いしなァ、どのような獣なのか全くわからん、しかし村人が何も処置をしてい無い所を見ると凶暴な獣では無いような気がする。


「今日はここまでにしとくか、これから先は獣の時間だぜ……収穫はあった、熊よりデカい獣と、それを退治しようとしない村人」


『でもあの年老いた人達なら仕方なく無い?』


「老人だからこそ頭を使って罠を拵えるものさ、老い先短いとなれば安定した生活を望むだろ」


『へえ、考えてるねェ』


「俺達の故郷と条件は似てるだろ?当て嵌めただけだぜ」


『ふふっ、あまり思い出したくない記憶ばかり?』


「し、しらん」


しかしおかしな村だぜ、あまり深入りすると確かにヤバいかな?


でもその先に楽しい事があるかもしれない、だったら飛び込んでみるのも良いかもなァ、ふふん。

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