第304話・『情事の際に声が大きいのは個性』

寂れた村の夜は早い、既にどの家にも明かりが無く廃村のような佇まいで俺を迎え入れてくれる。


さ、流石に起こしてまで事情を聞くのは申し訳無い、俺とグロリアが泊まる道具小屋から漏れる光だけが唯一の光。


痩せ細った大地だが耕せば問題無さそうだ、猫の額ほどの畑が幾つか見えるだけで本腰を入れて作業しているようには思えない、塩漬けにした肉を喜んだって事は狩りもしていない?


薄暗くなった道を歩くが探索するほどの広さは無い、俺の足音と奇妙な視線、この村の住民たちが小屋の隙間から俺を観察しているのがわかる、怖くは無い、俺は強いから、俺には一部がいるからな。


「見られてるな、注意されないって事はこのままで良いんだろ?」


『開拓してるんだから空いた土地を畑に使えば良いのにねェ、どうしてだろ』


「わかんないけどな、どうしてこれで飢えないんだろ?確かに塩漬け肉は喜んでいたけどおかしいぜ、この状況だと村の残りの住民も死ぬだろう、やせ細っていたか?」


『痩せ細っては無いよねェ、土地はこんなにも痩せているのに人は痩せていない、おかしいよねェ』


「何か理由があるのかなァ、不思議だぜ」


建物の造りや細工の施し方を細かく観察する、かなり昔のソレだ、確かに古い土地だろうけど立ち寄る人間もいるだろう?なのに全く技術が向上していないのには違和感がある。


何件かある木造の廃屋は既に修繕出来るモノでは無い、朽ち果ててこのまま終わりを迎えるだけだろう、これにも疑問が残る、さっさと壊してしまって薪にでもしてしまえば良いのに。


人間が生活しているようで人間が生活していないような奇妙な違和感、俺だけでは無くキョウもそれを感じているようで何も言わずに見守っている。


「普通壊して薪にするよな、俺達が泊まっているような道具小屋にするならまだしも」


『そうだよねェ、あまり木々も無いし、遠方まで足を運んで手に入れるなら村の使っていない小屋を壊すよねェ、土地も使えるしねェ』


「なんだかこの村おかしいぜ、矛盾ばかりだ、もう少し見て回ろうぜ」


『キョウの望むままに』


「お前もキョウだぜ」


『んふふ、ありがとォ』


キョウの声には糖度と粘度がある、脳味噌に直接バニラエッセンスが流し込まれるような不思議で蕩けるような声、俺やグロリアと全く同じ声なのに口調や中身でこんなにも変わるんだな、クロリアや炎水も声は同じだもんな。


シスターって量産品だから仕方無いのかな?その中でもグロリアの声は特別に清廉で高貴で透き通っているような気がする、惚れた女の声だから仕方無いぜ?あんあん喘がせたい声をしているがあんあん喘いでいるのは何時も俺。


キョウもそうだ、湖畔の街で夜を共にする時はあんあん喘がせたいのに何時も俺があんあん喘いでいる、俺の声って無駄に大きくね?カーーッ、深い闇夜の中で顔が真っ赤になるのがわかる、情事を改めて思い返すと異様に恥ずかしい。


「キョウお願いがあるんだ」


『へぇ、珍しいね、言ってみなよ』


「あんあん言ってくれ」


『あんあん?………ど、どうしたの、いきなりわけがわからないよ』


「わけがわからないのはこっちの台詞だぜ!そんなの『あんあん』じゃない!」


『キョウのあんあんは声が大きいからねェ、ふふ』


「トラウマをほじくり返される羽目になったぜ!畜生!」


村の出口である階段と塀の石造りが良い味を出している、山へと続く道は雑草が生い茂りとても歩けたものでは無い、だけど僅かに折れた雑草が完全に使われていない事を拒否している。


小さな山だけど食料はあるだろうに、頻繁に通っていないのはどうしてだろう?


「謎が残るぜ」


『キョウもあんあんって言って』


「うるせぇ」

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