第303話・『寂れた村だけどイベントはある』
痩せた大地だな、立ち寄った村は貧相で何処か陰鬱な雰囲気、勿論宿は無いので屋根のある場所なら何処でも良いや。
ここではお金よりも食料の方が意味があるな、塩漬けにした肉を幾つか渡すと仏頂面が途端に笑顔になる、民家も五つ六つで本当に少ない。
寒村、それにしても酷いな、生活臭の無い朽ち果てた小屋が幾つもある所を見ると何かが原因で一気に寂れたのか?土地は痩せているが野鳥も見えるし食える野草も生えている。
グロリアに視線で問い掛けても無言で流される、あまり深く関わるなとその視線が告げている、勿論子供の姿は無い、老人ばかりの村、未来も希望も無いように思えるが俺が渡した塩漬けの肉が微かな潤いになるのだろう。
「道具小屋か、まあ、一夜を過ごすには問題無いわな」
「そうですね」
「建物が幾つも潰れてたな、元々はもっと人数がいたんだろ?どうして一気に寂れたんだろ」
「さあ、流行り病が何かでは無いですか」
「ひぃ」
「シスターは病気にならないので大丈夫ですよ、キョウさんの場合はエルフライダーの能力を行使し過ぎると風邪に近い症状が出るようですが」
「頭がガンガンして歩けなくなるからな」
道具小屋と言っても元々は誰かが住んでいた民家だ、暫く滞在するには十分だ、囲炉裏は床敷きの部分と土間の部分が大黒柱を中心に結合していて床敷きの部分の真ん中で切り開かれいる。
薪(たきぎ)を燃料に赤々と燃え上がる炎は心を穏やかにさせてくれる、天井から垂れ下がる自在鉤(じざいかぎ)には鉄製の立派な鍋が吊るされていてる、乾燥で喉が痛いのでそこに水を張っている。
煮炊きも出来るし良かったぜ、蝋燭の火を頼りに足踏み式の回転砥石で剣を研いでいるグロリア、俺は藁の上で寝転びながらこの村の現状を考える……どうにもおかしい、痩せた大地だがあそこまで生活に困る程か?
「何だか違和感があるぜ、夜中に襲われたりしないだろうな?」
「その為に剣を研いでいます」
「え」
「冗談です、人間を殺すのは好きではありません、それが老人ともなれば尚更です」
「お、お爺ちゃんお婆ちゃんは大切にしないと駄目だぜ?………そんなグロリア見たく無いもん」
「う、あ、ぜ、善処します」
「善処して欲しいぜ」
生きる為に食うのなら仕方が無い、生きる為に命を奪うのなら仕方が無い、相手が悪意を持って攻撃して来たら殺してしまうのも無理は無い、だけどそれ以外で命を奪うのには抵抗がある、あれだけのエルフを殺しておいて?
だけどソレのお陰でお腹が膨らんだ、満たされている、結局は自分の都合で命を奪うのだ、それは人間もエルフもエルフライダーもきっと同じ。
「この村の人が何かで困っているのなら手助けしてやりたいぜ」
「そうやってまた厄介事に自分から飛び込んで…………」
「よーし、少し話を聞いて来るぜ!ファルシオンは置いて行くけど研ぐ必要は無いからな!」
「はいはい」
「血と油が染み込んでいないファルシオンはファルシオンじゃねぇからさ」
魔剣の能力を無効化する魔剣モドキ、能力としては頼り無いが仕方無いぜ、自分で自分の能力を選べるわけでは無いんだもんな?俺がエルフライダーとしての習性を選べなかったように。
だからファルシオンはそのままで良いんだぜ?
「いってきまーす」
「情に流されないように気を付けて下さいね」
グロリアの言葉はとても冷静でとても現実的。
何時も俺に対する情に流されている癖に。
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