第301話・『見上げているけでは背は伸びない』

新しい魔王ってなぁに?……冒険者ギルドで新種の魔物の討伐依頼を受けて首を傾げる、キクタが勇者で魔王はだぁれ?


お腹が空いた、魔王と勇者はセットで美味しい、思考が乱れる、グロリアにお願いするとそれはそれはと喜んでくれた。


足取りを知りたい、俺は魔王の眷属の美味しさを知っている、勇者の美味しさを知っている、魔王の眷属よりも勿論上質で勇者に並ぶ存在。


その魔物を食らって味を知っておきたい。


「新しい魔王かー、勇魔も大変だな、自分と同じように魔物を支配する輩が出て来てさァ」


「君臨していれば対抗馬も出て来ますよ、それに使徒がいるのだから魔王でも迂闊に手を出せないでしょう」


「使途は強いからなァ」


「ふふ、まるで戦った事があるような口ぶりですねェ」


「あ、あはは」


誤魔化しながら先を急ぐ……っても新種の魔物が発見された場所までかなり距離がある、新種、新種ねェ、魔王の魔物は世代ごとに属性や特徴が分かれている、勇者と魔王の能力を兼ね備えた勇魔の魔物はさらに個性的だ。


幾何学的で生物的な要素を排除した魔物、そしてそれらの最上位に君臨する使徒、今回の魔王の眷属はどのようなものだろうか?以前に見掛けたモノは機械的な魔物だった、勇魔の魔物に少しだけ近い様な気がする。


新種の魔物として様々なクエストで退治をするように書かれている、そこまで強い魔物では無いのだろうか?それとも弱い魔物しかまだ確認されていないのか、頭を悩ませる、だけど俺には魔王軍の元幹部の一部がいる、負ける気はしない。


「魔王も餌だぜェ」


「はいはい、食欲旺盛なのは良い事です」


「グロリアのように食い過ぎも良く無いと思うけどな」


「はいはい……はい?」


「何でもねーぜ」


お店の人が泣きながら謝るぐらいの食欲は少しな、沢山食べる女の子は好きだけどやはり限度があるぜ!海沿いの道を歩きながら溜息を吐き出す、グロリアの出してくれた条件をクリア出来無かったし何だか落ち込む。


魔剣を生成する能力を手に入れたがまだ上手に扱え無いし、天命職の能力は過去の経験から完全に扱えるようになるまで時間が必要だと理解している、新種の魔物とやらに試して見たいがそれまでにモノに出来るかどうか。


「グロリアはさ、新しい力が手に入ったらどうやってモノにする?」


「おや、珍しい質問ですね」


「相談できる人ってグロリアぐらいしかいないしさ」


ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながらグロリアはもう片方の手で腰の辺りを弄る、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白で今日も眩しい。


同じ服を着ているのにどうしてこうも違うのだろうか?青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が探るように細められる、どのような能力を手に入れたか説明出来れば良いんだけどそれも禁止されている。


キョウは何時までもグロリアを敵視している、そして俺はその判断が間違っていると理解しつつキョウに従う、半身の言う事に逆らう事はしない、俺とキョウは一心同体、互いを尊重して互いを理解している、それが自分の考えと違っても。


険しい岩壁が何処までも続く地形に現地の人々はブドウやレモンの段々畑を耕して果樹園や放牧地などにして有意義に土地を活用している、紺碧の海と合間って何とも言えない景色が広がっている。


「キョウさんはもっと自由に力を使って良いと思いますよ?日常的に」


「そ、それだと目立つじゃん、俺って、エルフライダーって……普通じゃないだろ?」


「私が護ってあげるから、そんなに自分自身に怖がらなくても良いんですよ」


「む、何だか上から目線だぜ」


「………キョウさんが勝手に下から見上げているだけですよ」


「う、うぅ」


「今のキョウさんの実力がしりたいので、食事の前に軽く稽古をしましょうか」


「う、うん」


好きな女の子に子供扱いされて少し不機嫌になる俺、見下されているんじゃなくて見上げているだけか。


何時かグロリアと同じ目線で世界を見たい、そう思った。

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