第300話・『リンゴを食べる、でも顔もリンゴのようで共食い』

首が飛ぶのを黙って見ていた、死体は鉄の塊で捕食はしたがそれが俺の中でどのような意味を持つのかわからない、死体は再生出来るけど残骸はどうなのだろうか?


男らしい呵々蚊カッコいい、しかしすぐにナーに戻ってしまった、ナーナー言ってるのも嫌いでは無いが何だか残念、キクタモドキ、こいつが自分の意思を持てたのは本当にキクタの能力のお陰?


第三者の意図を感じる、呵々蚊はこれから先ずっと俺と一緒だ、もう離れない、離さない、吸収しながら笑うと『キョウの中は温かいナー』と何だか恥ずかしい事を言ってた、俺の中は温かいのかな?


古都を抜けて例の警備のお兄ちゃんにご飯を奢って貰った……グロリアとも合流して!一部の回線も回復したし良かった良かった、皆からは心配された、特にキクタとお母さんとキョウとキョロが五月蠅かった、耳が痛い。


グロリアに起こった事を全て説明した、出された条件はそもそも一部の力を失った事でクリア出来無かった、素直に話すと頭を叩かれた、キクタに呵々蚊の事を説明したが俺の中で見ていたらしく希薄な反応だった。


怒っているわけでも無く、苛立っているわけでも無い、どうでも良いって感じで何だか傷付く、呵々蚊曰く『嫉妬しているナー、夜の事についてはキョウから語ら無い方が良いナー』だった、どうしてだろう?キクタ?


他の一部が嫉妬する事はあるがキクタが嫉妬する?しかもイライラしているわけでも無く何かを訴えるわけでも無く希薄な反応なのに?キクタの嫉妬は表現としてこれで正解なのだろうか?何だか不思議だぜ、し、暫く様子見だ。


しかしあのお兄ちゃん、無限に奢ってくれるんじゃないかってぐらい奢ってくれたな、グロリアの食事量とお酒の量に怯えていたがまあ仕方無い、だってそれがグロリアだから、街の中を歩きながら伸びをする、古都と違って人の気配があって落ち着く。


「疲れたぜ」


『んふふ、ご苦労様、まさかキクタの容姿を持った偽エルフ、魔剣を見逃すために自分の能力を無意識で封印するだなんて……キクタ、ウザいよねェ』


久しぶりに聞いたキョウの声は相変わらず俺と同じ声、だけどそこに含まれる棘に目を瞬かせる、今日は休日、年中休日のような俺だがグロリアに休みなさいと命令された。


グロリアの滞在していた街はそこそこの広さでそこそこに発展している、滞在するには少し退屈で刺激が少ないが休むにのには良い場所だ、欠伸を噛み殺しながら口元をむぎゅむぎゅさせる。


周囲の視線が俺に集中している、若い男性も幼い少女も年老いた老人も俺を見て顔を赤くしているのだ、ああ、少し品が無かったか、自分がシスターである事も忘れて呑気に欠伸をしていた、喉チ○コも見放題だぜ?


あのお兄ちゃんの連絡先も貰ったし今度手紙でも書いてやろう………気の良い奴だった、グロリアの視線が妙に痛かったし一部の皆が無言なのも怖かった、な、何だろう、何か駄目だったかな?直接言ってくれないと困るぜ。


「おっちゃん、このリンゴ少し虫食いあるから安くしてよ」


「いいよ、お嬢ちゃん、綺麗だねェ」


「………………」


「どうしたのお嬢ちゃん、サービスでもう一つ虫食いのリンゴをあげよう」


「……………綺麗かー、おっちゃん!俺って綺麗か!」


「綺麗だけど少しおかしい娘だと思うよ」


「うへへへへへ、褒められると嬉しいんだぜ♪」


「なんとまあ、お人形さん見たいなのに面白いお嬢ちゃんだねェ」


「うへへへへへへ、おっちゃん優しいからこの虫食いのリンゴを一つあげちゃる」


「それはおじさんがサービスしたリンゴなんだけどねェ」


可愛い、綺麗、好きな言葉だ、リンゴを齧りながら首を傾げる、どうしてその言葉が好きなんだろう?ああ、それはグロリアを意味する言葉だからだ………綺麗、可愛い、そう言われるとグロリアに近付けたようで嬉しい。


容姿を褒められた事では無くグロリアと同じだから嬉しい………何だか歪んでいるなァ、しかしこのリンゴ美味いなァ、もぐもぐ、シスターが往来の真ん中でリンゴを齧っている姿は中々に珍しいらしい、みんながさらに注目している。


な、何だか恥ずかしくなる、道の隅へと移動して顔を伏せてリンゴを齧る、もぐもぐもぐ、もぐもぐもぐもぐもぐ、しかし視線は集中している、それが俺を赤面させる、べ、別に悪い事をしているわけじゃないけど、何だか恥ずかしい。


「何をしてるんですかキョウさん」


「ひう」


背中を叩かれて振り向くとグロリアが腕を組んで微笑んでいる、教会のお仕事はもう終わったの?良い子で待ってたよ。


「ん!」


「り、リンゴ?」


「ん!」


「え、えっと……ありがとうございます」


「ん!」


「…………ここで食べろと?………はぁ、顔を真っ赤にしてリンゴのようですよ、わかりました、頂きます」


「ん♪」


二人でリンゴを齧りながら世間の皆さまに注目される、ふふ、顔が真っ赤なのは恥ずかしいからじゃ無いぜ。


グロリアに会って嬉しいからだぜ?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る