第298話・『殺意を理解したロリ、殺人幼女』

怒りが無いとまで言われた、怒りって何だろナー。


幼い頃から大好きな人達に囲まれて不満は無かった、あのような最悪の世界でも不満は無かったのだ。


キクタ、レイ、そしてキョウ、この三人といるだけで幸せ、不満は無いナー、しかしそれ以前の記憶が曖昧だ、不確かだ。


だけどそれに満足している、満足していた、路地裏の世界は最悪の世界、キクタと自分の庇護の下でキョウ達は生きている。


護るべき人がいる、それはとても幸せな事だ、キクタはキョウを護る為に危険因子を全て排除する、エルフの中でも特別なハイエルフ、その古い血統の純血種。


本人はソレを何も誇らない、エルフである事すら本人は意識していない、彼女に存在するのはキョウを護るべき自分、キョウを愛している自分、それ以外の事柄など全てどうでも良い。


キクタは完成されていた、自分は特化していた、レイは破滅していた、キョウは…キョウは優しかった、誰に対しても偏見なく付き合う、誰に対しても自然体で触れ合う、キョウは、美しかった。


本人は男っぽい事を気にしていたがそんな事は無かった、丸みを帯びた体は少女らしい愛らしさに満ちてたし、少し生意気そうな瞳は見る者を魅了した、猫のようなしなやかな体、キョウに恋をした。


恋い焦がれた、同性であろうが何だろうが恋をすれば終わりだ………向き合うしか無い、しかし彼女はキクタと結ばれた、それでもと全てを飲み込んだ、キクタは完璧だった、神話の世界の幼い神のように人外の美貌を持っていた。


それでいて独学で魔法を覚え知識を得て全てを得ようとしていた、その全てを対価として捧げる事でキョウの全てを手にしようとしていた、そんな幼馴染二人、嫉妬も憎悪もあったが幸せだった……嫉妬と憎悪があるからこそ生きている実感があった。


しかし他者を傷付けようと積極的になる事は無かった、キクタは積極的に傷付けていたナー、女だろうが男だろうがキョウに近付くモノを積極的に排除する、ふふ、ありゃ、友達出来無いわナー、あ、自分がいた、良くもまあ友達でいれたナー。


それでも、それでも、ああ、でも怒りの感情って何処から生まれるのだろう?初めて怒ったのは何時だったっけ?思い出せないナー、思い出そうとすると、何だか、苛立つ、狂いそうになる、脳味噌の裏でウジ虫たちがイソギンチャクの触手のように。


ナー、ナー、ナー、そもそもどうしてそれを思い出そうとしているナー、今は何をしていたんだっけ、ああ、そうだったナー、キョウの帰りが遅くて、キクタと二人で、それでそれで、何だっけナー、あそこら辺を仕切ってたガキ、年上のガキ。


男の癖に頭で戦うような奴、いいよ、関係の無い所でそうやって生きていてくれ、でもでも、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。


あ、え、ああ、殺す、殺意を思い出す、殺意?


『いたい、はなして』


キョウに仕事の紹介をしていたそいつ、そいつがキョウの腕を掴んで卑しい笑みを浮かべていた、腕ばかりか髪の毛を、ああ、それを見た時に怒りを理解して殺意を理解した、自然にナイフを取り出して足音を消して近付く、砂利の少ない場所を選びながら歩く。


砂利が擦れる音は容易に自分の存在を相手に気付かせてしまう、爪先で接地面を少なくしてゆっくりとゆっくりと、簡易な服装のお陰で布が擦れる音もしない、全裸が本当は一番ナー、そう、この記憶だ、人を殺した記憶、卑しい男を殺した記憶、だから男は嫌いだ。


キョウに暴力を働くから嫌い、キョウを傷付ける奴は嫌い、キョウを傷付けない奴も嫌い、キョウに暴力を働かない奴も嫌い、だってキョウにいずれ……可能性がある段階で駆逐しないと、消さないと、背後に立つ、トンっ、呆気無い、呆気無い、キョウ?


抱き付かれる、あーんあーん、子供のように泣くナー、ぽんぽんぽん、背中を叩いてやる、お尻に血が広がって生暖かい、ああ、キョウに抱き付かれて座り込んだんだっけ?遅れてごめん、怖い思いをさせてごめん、キョウを護れて良かった、殺して良かった、刺し殺して良かった。


役得なのだろうか?可愛い、何時もの男勝りのキョウも好きだけど泣いているキョウも可愛い、ああああ、でもこれが怒るか、キョウのあの泣き顔をみて、助けてって聞こえたような、そうしたら殺意も怒りも理解出来た。


結局、キョウが与えてくれた感情だった。


そしてまた―――――――――――――――――――――――――――――現代に戻る。


「お前、キョウを泣かせたな、死なせてやる」


かつての自分の口調は良く馴染んだ。


殺意も憎しみも知らずに人殺しを楽しんでいた自分。


キョウが変えてくれる前の自分。

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