第290話・『瞳の中にハートマーク、あとファーラウェイ』
仕上げは上々、全身を震わせつつ異常な汗を流す可愛い可愛い俺の呵々蚊、顔は真っ赤でぶつぶつと意味の無い単語を垂れ流している。
瞳の水晶体の前には虹彩と呼ばれる光を通さない為の膜が存在している、色彩のある『黒目』の部分の中央部の真っ黒い箇所を瞳孔と呼称している。
その周囲に存在する茶色や緑といった色のある箇所が虹彩と呼ばれている、光の無い場所では虹彩が大きく開いて瞳孔の部分が大きくなる、理由としては瞳の内部に入る光量を少しでも多くしようとする為だ。
明るい場所では虹彩が閉じてしまって瞳孔の部分が収縮して内部に入る光の量を少なくしようと調整する動きを見せる、これは生理的現象として体が自然に行っているもので自分の意志でコントロールする事は出来無い。
故に明るい場所でこのように開きっぱなしの状態は既に異常だ、瞳に大量の光を吸収する事で網膜が破壊されてしまう、しかし俺の一部である呵々蚊にはその常識は通用しない、破壊されてもすぐに再生する。
太陽を視認した後に視界に白や緑の残像が発生する、通常なら暫くすると消えてしまうが強い光を瞳に長時間吸収するとその残像が消えなくなる、今の呵々蚊の状態はソレだ、俺という圧倒的な太陽を前に永遠に俺を瞳に映している。
脳が活動を停止する事で光に対する反応が喪失する為に瞳孔が開きっぱなしになるがこのまま死んでも俺を永遠に見続けられるのだ、幸せだろお?ひひ、手を繋いで誘導する、先程とは立場が逆転しちまったな、くふふふふふふふふふ。
「ああああああ、キョウが輝いて見えるナー、眩しい、眩しくて眩しいのに瞼を閉じられないナー」
「そりゃ、完璧美少女だからな、しっかり瞳に焼き付けるんだぞ?そのまま死ね、死んでも蘇らせてやる」
「き、綺麗だナー、キョウは初めて出会った時から呵々蚊のお姫様だナー………何時も呵々蚊に優しくしてくれて、それで」
「そうだぞ、だからこうやって大好きなキクタを殺せるお前にしてやったんだぞ?感謝しろ、バカ」
「し、してる、してるナー」
「そうやって媚びてる姿好きだよ?」
「ぁぁ」
ちゃんと仕上げたのでそろそろキクタの偽物に会いたいぜ、キクタモドキ、魔剣の魔物、俺に呼応するように気配が強くなっている、そんなにも俺を求めてどうしたんだよ?俺は大好きな呵々蚊と一緒で楽しいんだ。
お前なんかと遊んでやらねーし、嫉妬を煽る、好かれていると自覚しつつ相手の嫉妬を煽る、ふふ、あの魔剣、キクタと一緒で俺の事が大好きなんだな、だって呵々蚊と触れ合う度に憎悪が膨れ上がるのがわかる。
本物のキクタは俺のモノだし、魔剣はファルシオンがあるし、俺の横には大好きな呵々蚊がいる、だからお前の出番なんてねぇのにさ、ご苦労な事だぜ?くすくす、キクタめ、お前の俺に対する愛情がソレを生んだのか?
回線が復活したら説教だな。
「しかし柱群の頂上も異様に広いな、ほら、段差」
「あ、ありがとナー……キョウは何時でも優しいナー、だから好きナー」
「優しく無くて、お前を苛めたら?」
「好きナー」
「ふふふふふ、バカだな、理由なんて何でも良いのかよ、俺に殺されても同じように呑気な戯言を垂れ流しそうだな」
「殺してくれても好きナー」
「ぷっ」
大人びていた呵々蚊が童女のように呆けた視線で俺に愛を囁く、瞳孔は相変わらず開きっぱなしで息も荒い、頬は真っ赤に染まっていて俺に恋い焦がれているのがわかる。
支配欲が満たされると同時に何処かくすぐったい………純粋な愛情は俺の心をくすぐる、呵々蚊は好きナーと何度も呟く、まるでそれが口癖のように、本音を言えるようになって嬉しいのか?
今まで隠していた本音はそんな単純なモノか、ずっと俺の為に俺を殺そうとしていたのに、本音は『好き』か、だからこそ狂ってしまった……そして俺を取り戻した呵々蚊はもう俺のモノだ。
キクタにも渡さないよ。
「好きナー、好きぃ、キョウ好き」
「ハートマークで胸焼けしそうだぜ」
おっ、そろそろキクタモドキの気配が―――――仕上げは上々。
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