第288話・『紛い物で自慰行為』

暫く歩くと蜘蛛の巣が徐々に少なくなってゆく、ここからは狩場では無く生活の範囲ってわけか?


確かにここに足を踏み入れるまでに切り落とした蜘蛛の巣を考えれば納得である、どのような生物もここに来るまでに糸に絡まり動けなくなるだろう。


しかしファルシオンが蜘蛛の巣を無効にしてくれる、紫色の粒子が軽く触れるだけで消えてしまう、しかし魔法をかき消すのでは無く魔剣の効果をかき消す仕様のようだ。


魔法で試して見たが無効化しなかった、万能って能力でも無さそうだ、魔剣であるのに魔剣を無効化するだなんてご主人様と似て嫌な奴だなー、軽く苦笑する、困った相棒だぜ。


「しかし気配は強くなるが糸は減るな」


「そうだナー、キクタは整理好きだからナー、その影響を考えると自分の生活範囲にはあまり――」


「キクタの魔剣の話だろ?自我を得ていてもキクタと同じとは限ら無いだろ?」


「ふふ、それはどうかナー、ほら、キョウの可愛らしいおてて、繋ぐナー」


「た、確かに俺のおてては可愛いぜ………ロリのおててには負けるがな!」


「何時までも小さいってのもこれはこれで大変ナー、キョウはそのまま素敵な女性になって欲しいナー」


「じゃあ傍でずっと見ててよ、素敵な女性になるからさ」


「う、うん、わかったナー」


「グロリア見たいな!」


「……………旅をしている二人を遠視で見ていたけど、ああ、うん……ああ、うんナー」


「グロリアは素敵な女性だからな!」


「……………ああ、うん、ナー」


「超絶可愛いからな!外見も中身も!な!」


「ごり押しで押し通せるものじゃないナー!?」


ごり押しで押し通せると思ったぜ、何だよ、グロリア超絶美人なのに何が不満なんだよ?あれか?不機嫌な時に盗賊に襲われた時に一人残さず殲滅した事か?それでも苛立っていたので『生理か?』と問い掛けたらついでに俺まで殲滅しちゃった事か?


あの時の事を思い出して全身がガタガタと震える、グロリアと契りを交した右手の甲から血が溢れて来るのがわかる、ちょっとした冗談だったのにグーで顔面殴りやがった、自分と同じ顔をしている俺に対して一切の躊躇の無いグーぱんち!顔面が凹んだぜ。


「いや、あの時のグロリアはごり押しで俺を黙らせた、ごり押し最強」


「そのごり押しで顔面陥没しただろナー」


「そうだ!酷いぜ!あのアマぁ!陥没は乳首だけで良いぜ」


「そんな事を言ってるとまた顔面陥没させられるナー」


「死にたくないっ!」


「だったら黙る事も覚えた方が良いナー」


「……………………うん」


素直に頷く、しかし進めば進む程に瘴気が濃くなる、魔力の気配も強くなる、しかしそこには愛しいキクタの気配がある、何だか不思議だ、キクタじゃ無いのにキクタの気配を纏っている、いや、キクタそのものの気配。


俺の一部もそれぞれに個性があってそれぞれにそれぞれの気配がある、だけどそこには確かに俺の気配も交じっている、だとしたら魔剣の魔物はキクタの一部?バカな、それこそエルフライダーじゃあるまいし、ふふん。


「キクタの気配だ嬉しい、んふふ」


「キョウ、あまり意識すると」


「あはぁ、キクタめ、キクタめ、キクタめ、キクタ、キクタめ、キクタめ、キクタめ、キクタ、キクタめ、キクタめ、キクタめ、キクタ」


「キョウ」


「おれを、すくえなかったくせに、きくため、そーだ、呵々蚊」


「ど、どうしたナー」


「おれといっしょに、このさきにいるきくたを、ころそう」


「キョウ、あは」


微笑む、二人で微笑む。


「そうだナー、キョウと一緒に紛い物とはいえ、キクタを……そうか、そうしようナー」


二人でキクタを殺そうと微笑む。


俺の触手が、呵々蚊の頬に触れた、お前も一緒にぱっぱらっぱーになろうよ。


きっと楽しいよ。

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