第285話・『ひとりでたべられるもん、にんげんのうで』

柱群の頂上に到着する、これまた広大な空間、しかし相変わらず蜘蛛の巣のようなモノが広がっている。


これだけの広い空間に糸を張り巡らせてそれを複雑に組み合わせて精巧な網目状の構造を構築している、空を覆う程に一面に張り巡らせていて感心してしまう。


円網(えんもう)と呼ばれるソレを見詰めながら蜘蛛なのか魔剣なのかエルフなのかキクタなのかはっきりして欲しいと溜息を吐き出す、ファルシオンを振るうと呆気無く消失する。


紫色の粒子が網を分解しているのだ、魔剣の能力を奪ったファルシオンの能力、それが効果あるって事はこの円網も魔剣の能力の一つなのか?何せファルシオンの能力の全容がわからないので判断し難い。


中央から丁寧に放射状に引かれた糸に合わせるように同心円状に細かく糸が張られている……まるで雪の結晶のようだ、だけどコレは獲物を捕らえて捕食する為のモノ、魔物や人間の死骸が地面に幾つも見える。


どれもこれも頭部と内臓を食われている、しかし手足のような先端部分には手を出していない、何て我儘な奴だ、人間の手足は美味しいよ?だって俺食べた事あるもん、エルフと同じで人間も食べた事あるもん。


んふふふふふふふ、美味しかったなァ、おいし、地面に落ちて腐敗した腕を掴む、ぐにゅう、肉に指が呆気無く食い込むほどの腐敗ぶり、ウジ虫も湧いている、たんぱく質!予想外に速いスピードで移動するウジ虫が俺の腕に、んふふ。


舌で舐めるようにして捕食して奥歯で潰す、死臭、ウジ虫は死の味がする、死んだ生物の腐敗した肉の香りをそのまま小さな体に圧縮して閉じ込める、鼻から抜けるその香り、何処か薬品っぽい味がするのもご愛敬、そのまま肉も齧る。


勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない勿体ない、ごくり、おいし、おいし。


腐敗した部分と乾燥し始めた部分が良い感じだ、前歯で肉を削ぎ取るようにして捕食する、キクタの気配に惑わされているのか、呵々蚊が一部なのが、凄くスゴクうれしい、にゃあ、俺の突然の食事にも優しい瞳で見詰めてくれる呵々蚊しゅきぃ。


「キョウ、お腹空いてたナー、ごめんナー、気付かなかった」


「ぶしゅしゅ」


「ほらほら、腐った肉汁で可愛い顔が―――――」


「おいし、今度からは呵々蚊が餌を持ってきてねェ、こうやって、殺して、腐らせて、俺に持って来てねェ、んふふふふ、ガキでも老人でも魔物でも腐った肉は同じなの、だから頼む、んふふ」


「キョウが望むなら幾らでも」


「???幾らでもいいの?あはは、呵々蚊は、ほんと、俺が大好き、ぶしゅう、ぶしゅしゅ、気泡みたいだ、表面がガスで膨れて皮が泡立ってる、人間の死肉」


「そうだナー、沢山あるからゆっくり食べると良いナー、これから先は戦闘だからナー」


「おれをまもってねェ」


「………キョウはかつて殺してと言ったナー、でも今は呵々蚊に護ってくれと生きる為に肉を食らいながらお願いしてくれる、し、幸せナー……ありがとう、ありがとうキョウ」


「おねがいじゃないもん、めいれいだもん」


「ぁぁ、嬉しい、呵々蚊のご主人様っ、ゆっくり食べるナー」


「う、うん、いわれたとおりにできるもん」


おいし、おいし、おいし、地面に沢山落ちてるよ!中心から放射状に伸びた糸を縦糸(たていと)、縦糸に対して直角に同心円状に広がる糸を横糸(よこいと)と言う、糸の隙間にも食べ残しの腕やら足やらが絡まっている!


祟木の知識が強制的に流れ込んでくるがそれよりも自己の食欲が勝る、しかしコレは確実に蜘蛛の糸だ、知識を読み取ら無くてもそれは理解出来る、んー、俺の中に蜘蛛の一部でもいるのかな?構造も構築する過程も全て頭に入っている。


横糸は正しくは同心円では無い、丁寧に螺旋状に張られているのだ、網の中心付近には横糸は存在しない……それに対して縦糸の交わる箇所には縦横に糸が複雑に絡まった部分が存在する、これは『こしき』と呼ばれる特殊な部分で蜘蛛が巣にいる時はこの部分を中心として移動する。


網の外の部分には縦糸を張る枠と交わる糸が存在する、これを枠糸(わくいと)と呼ぶ、意外な事に網の中で粘着があるのは実は横糸だけなのだ、横糸を注意深く観察すると串団子のように粘球が並んでいるのがわかる、横糸は細かく螺旋状に構築しているが普通網の下の部分の方が数が圧倒的に多い。


理由としては網の下の箇所では一部が螺旋では無く往復で張られているからだ、そんな丁寧に丁寧に仕事をした巣を破壊しながら腐り切った肉を食べる、ウジ虫美味しい、お肉も美味しい、ついつい嬉しくなってお尻を振ってしまう。


「みてて、おれがたべるのみてて」


「見てるよ、ずっと見てる……食事中のキョウ、可愛い、可愛いナー……可愛い、呵々蚊の天使、呵々蚊の幼馴染、ぁぁ、幸せな時間」


「みてて!ちゃんとみてて」


「はいはいナー」


じょうずにたべれるよ!


ちゃんとほめてね?

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