第283話・『お母様の絵、お母様の過去』

足を踏み入れた瞬間に寒気を感じた、しかし繋いだ掌の温もりがすぐに恐怖を打ち消してくれる。


灰色狐の転移魔法を彷彿とさせるがそれと同じモノなのかわからない、巣に誘き寄せられたようなそんな感覚。


青空が広がっている、しかし空間には限度があり見渡せる範囲にも暗闇が広がっている、夜の闇では無く虚空の闇、ここが創造された空間だとすぐに認識する。


巨大な山が浮かんでいる、しかもそこに至る道は透明であり踏み締めると何も感触が無い、しかし虚空に落ちる事は無く前に進む事が出来る、不可思議な空間、山だけが自然物であり見慣れたモノ。


あまりに険しい山を前に項垂れる、その岸壁には繊細な装飾が施された馬蹄形の窓が見える、中に入れるのか?この山が全てダンジョンだとしたら驚きだが低い層にしかその形跡は見られない。


透明な地面を歩きながら半周すると入口が見付かる、中に足を踏み入れる、カビと腐臭、生き物の死体の匂い、暫く歩くと蝙蝠の糞塗れになった人間の死体が転がっているのが見える、どうしようもねぇなと溜息。


石窟、正しくは石窟寺院の一種だ、何処かにある本物を模倣しているのかそのまま移動させているのかはわからないがかなりの手練れだ、岩山や岩場を人工的に掘削した空間の総称だがさらにそれを人工的にコピーした場合は何と呼べば良いのだろう?


「だから何を祭ってるんだよ」


「間違い無いナー、ここにキクタの魔剣を封じたナー、なるほどなるほど」


「あん?」


「あんあん言うのはベッドの中でしろナー」


「げ、下品だぜ、それに俺の喘ぎ方はもっと可愛い感じだぜ」


「自分で言っといて何を言ってるナー、ほら、キョウ、こっちナー、石畳に段差があるから転ばないようにするナー」


「こ、子供扱いすんなよ、お前をあんあん言わせたのは俺だぞ」


「ほらほら、ちゃんと足元を見て歩くナー、何処に仕掛けがあるかわからないナー、冒険者だろー?」


「う、うっさいな」


狭い導入部と広い奥の空間、通路と言うよりは広大なドームに複雑に配置された障害物がある謎の空間、豊富な天井画が見る者を圧倒するがそれが何なのかわからない、神様?


一人の神様を他の神様たちが虐めている?胸に疼くものがある、脳味噌の裏がヒリヒリするような独特な感覚、この天井画について俺は何かを知っている、しかしそれが何なのかはわからない。


「初めて見る絵じゃない感じがする」


「ああ、キョウだとそうなるかもナー、あそこにはキョウのお母さんが二人描かれているナー」


「二人とも母親つー罪深いアレか」


「同性愛は神にとって普通の事だからナー、しかも姉妹らしいしナー、キョウは罪深いナー」


「ちんちんが無くても赤ちゃん作れるんだな」


「実際に会って股間を確認するナー」


「で、出来るかっ!」


初対面の母親に股間を見せてって言えるかっ!しかし先程の話が気になる、キクタの魔剣?それがこの一連の騒動と関係があるのだろうか?僅かに光のある山の中にある広大な空間。


石窟寺院群が広がっていて中々に中央まで行けない、魔力の糸はそこに向かって伸びている、この大陸には少ない形状の建物や造形物ばかり、ルークレット教があるのにルークレット以外の……。


いや、天井に描かれたあの虐められている神様、あれがルークレットか?お母様、確信は持てないが良い線だと思うぜ、しかしそれでは祭っているつーより他の神様の敵として描かれている事になる。


「ここが中心か、変な建物」


「そうだナー」


「ナーって言って見てくれ」


「ナーナー」


「やっぱり語尾かっ!さてこの中にボスがいるんだっ、邪魔するなよ」


「そうだナー、でも、姿を見たら殺意が抑えられないかもナー」


「へ?」


それってどーゆー意味なんだろ?

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