第281話・『ちかう』
少しだけ懐かしい夢を見ていた気がする、少しだけ、ほんの少しだけ。
エルフライダーは精神が不安定な生き物………自覚がある時もあるし無自覚な時もある、今回はどっちだろうか?とても優しい夢だった、何だか知らないが満たされている。
薄暗い、しかし灰色狐の細胞のお陰で全てを見通せる、だけど何だか目がしばしばする、まるで泣いた後のような?違和感に首を傾げる、泣いたっけ?泣く理由も無いのに泣かないよな?
しかし虫食い状態の脳味噌なので自分自身を信用出来無い……ざーざーざーざーざー、ざざっ、あ、何だっけ、どうしてここにいるんだっけ?首を傾げる、あれ、さっきも首を傾げたような気がする。
おかしいぜ、でもすっきり。
「すっきり」
「そうナー、ほら、手を繋ぐナー」
「ん?さっきは嫌がってたような気がする、気がするぜっ!」
「昔は昔、今は今ナー、ほら」
「流石は俺の『一部』だぜ、おっ、グロリアが言ってた使って良い一部の能力は呵々蚊にするぜ、ん?出すのは夜以外駄目だったっけ、まあいいや」
「え」
「ん?どうした驚いた顔をして、自分自身に驚くなんて愚かな事だぜ」
「そ、そう、そうナー、呵々蚊はキョウの一部ナー、お、思い出してくれた、回線が繋がったナー、尚更、もう、キョウを傷付けない」
「あ、愛の告白みたいにどうしたよ?ふん」
急に積極的になりやがって!魔剣の魔物が出てももう怖く無い、この塔に入って何回か戦う羽目になったが対応がわかっていれば恐れる事は無い、蜘蛛のような足の周囲にある透明な糸を斬り落とせば良い。
そうすれば魔剣の魔物はその自我を失って元の道具へと戻る、お母さんが教えてくれた、誰かがこの透明な糸を魔剣に寄生させて変質させている、強制的に魔物へと変化させている、いいねェ、俺の能力にそっくりだ。
呵々蚊はナイフを躍らせるだけで容易に魔剣を沈黙させる、こいつの職業って何だっけ?一部なのに知らないっておかしいな、今の俺は全能感に支配されている、そして幸福感、俺は何かを取り戻した?
「そ、そんな風に女の子を気軽に口説くのは良い事じゃ無いぜ」
「気軽に口説いて無いナー、ずっと言いたかった」
「そ、そう」
「キョウを愛してるって、今なら胸を張って言える」
「――――――あ、う、し、しらん、しらんしらん、先を急ぐぞっ!」
「魔物に寄生した糸を視認出来るナー?それが魔剣を魔物化させる傀儡糸ナー、追跡すれば親玉に出会えるナー」
「そ、そうか、エルフだけじゃなくてそっちも、グロリアに言われたし仕方ねぇか」
「そ、そうナー………本当に気軽に言って無いナー、愛してる、誤魔化しはしない」
「ふ、ふーん、こっち、こっちの糸は追跡できる」
灰色狐の細胞に感謝しながら切れた糸を追跡する、微量ながら魔力の気配を感じるが集中しないとそれすらもわからない、魔力を使わずに対象を捕食する俺とは全く違うな、所詮は魔物って事で良いのか?
「キョウ、手を繋ぐナー」
「う、それは後で良いじゃんか」
「手を、繋ぐナー……ナー」
「わかった、わかったぜ……何なんだよ、離れ離れになるわけでもねぇのに」
「っ」
明るく濃い青紫色の瞳は全てに対して達観しているような薄気味の悪さがある、年齢は10歳ぐらいなのにその瞳の奥にある知性や経験が僅かに表面に出てしまっている。
しかしどうしてだろう、そこにあるのは僅かな恐怖と強い決心、二藍と呼ばれる色合いをした瞳にはそれがある、この僅かな時間に何に怯えて何を決心したのだろうか?
紅、紅藍(くれない)とも書かれるその色に藍を合わせた事で二つの色合い=二藍と呼ばれるようになった、恐怖と決心、二つの感情が垣間見える彼女に相応しい色彩。
「もう離れ離れにならないナー、約束」
「やく、そく、か、もう、もう破ったらダメだぜ」
不思議とそんな言葉が――――。
「誓う」
ああ、勇ましい視線、それ以上に心が満たされる。
どうして?
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