第274話・『ロリ変態幼馴染はベッドに引きずり込まれるのだ』

懐かしの土地に足を運んだらキョウと遭遇する羽目になるとはナー、夜が深く深く深くなる、既に二日目だ、熱は少しずつ下がって来ている。


風邪もそうだがエルフライダーの能力が暴走している、忘れられた一部である呵々蚊にはそれがわかる、キョウの本来の性質は優しい無垢な少女、そしてその肉体はエルフを捕食する為の化け物。


どちらかがバランスを崩せば天秤は傾く、キョウはエルフを食べるのが大好きだけど何処かで戸惑いを感じている?『今』のキョウは人間としては普通に生きて来たのだ、仕方が無い?うーん。


キョウは何処までもキョウだ、それだけではこのような状態にはならない、だとすれば答えは簡単、感知したエルフを何処かで逃がそうとしている?それだな、それが原因だ、実にわかりやすい。


しかし相手は誰だ?確かにこの古都にエルフがいる事は確認している、最近溢れるようになった魔剣の魔物を狩っているらしいがそいつをどうして逃がそうとする?食べたくないって気持ちが現状を招いている。


それによってエルフライダーである自分を否定してこの有様、ベッドの上で眠るキョウはあの頃と変わら無い、干渉してみるがキクタの声は聞こえない、誰の声も聞こえない、穏やかな寝息が聞こえて心が弾む。


「困ったナー、これではエルフを捕食出来無いで死んでしまうナー」


だとすればその問題のエルフを捕まえて殺すしか無い、知り合いだとしたらそれでキョウは強制的に『戻る』のだから………エルフライダーの習性を利用すれば良いのだ、失われる記憶の法則、それを呵々蚊は知っている。


大切なモノを捕食するか失われる事で虫食い状態になる記憶、ふふ、可哀想なキョウ、殺してあげたいキョウ、なのにどうして呵々蚊はキョウを生かそうとしているのだろうか?矛盾、でも苦しんでいるキョウは見たくない。


殺す時も安らかな表情で―――呵々蚊の望み、キクタをキョウに奪われてキョウをキクタに奪われた悲しい女の唯一の希望、キョウがキクタにでは無く呵々蚊に頼んでくれた、それだけが呵々蚊の生きる意味になった。


「でも、今殺したら苦しいままナー、ね、キョウ」


「ねず」


「ねず?」


「ねずみのにくは、うまい」


寝言の内容に少し笑ってしまう、良く喋り良く食べて良く眠る、そして良く懐く、エルフライダーって生き物はどうしてこうも魔性の生き物なのだろうか?エルフばかりでは無く全ての生物を惑わして虜にする。


昔からそうだったナー、最初にキョウに惑わされたのはキクタだったか自分だったか、暖炉の明かりが全てをオレンジ色に染める、過去を想う、キョウを想う、しかしストーカーってのは流石に酷く無いかナー?


確かに以前に会った時は少し頭の調子が良く無かった、キョウへの愛情が暴走して少し本性を見せ過ぎた、この子があまりに無垢だからついついあんな具合になってしまった、反省はしない、でも嫌われたくは無い。


「か、かか」


「んナー?」


「そのめがね、いくらぁ」


「………こら」


「いたい」


額を叩くと泣き顔になって唸る、問題のエルフの居場所も大体把握している、キクタも一部も使えないようだし自分が護衛をしてやるしか無い、それに前世からの因縁がある自分からしたらそのエルフの正体が気になる。


過去か今か、それだけが気になる、それにキクタがいないのが良い、キョウと二人っきりってのが物凄く良い、で、デートみたいだ、二人で冒険、かつて魔王を倒すためにキクタと一緒に冒険をしていた頃を思い出す。


この古都はその時から古都だった、魔剣の古都、勇者の力で見付けたここは様々な能力を持った魔剣で溢れ返っていた、しかしキクタは愛用の聖剣があるから良いと何も持ち帰らなかったナー、懐かしい記憶、そうそう。


確かここに聖剣を手に入れるまで愛用していた魔剣を封印したんだっけナー、勇者が魔剣って何だかナー、キクタの魔剣、本人はもう忘れているだろうナー、ふふ、あいつ、キョウ以外の事はすぐに忘れるからナー。


『ここに封印しよう、ああ、キョウは元気だろうか』


『早く魔王を倒して戻るナー、きっと寂しがっているナー』


『キョウを泣かせる奴は殺す』


『ほら、他のメンバーがドン引きしているから止めるナー、全ての原因は魔王ナー、魔王がキョウを客観的に泣かせているナー』


『じゃあ魔王を殺す』


『あははは、みんな見ろナー、単細胞でも勇者になれるナー』


『呵々蚊も殺す』


『え』


懐かしい記憶についつい口元がゆるむ、キクタとの思い出、悪いモノでは無い。


それなのにキョウの近くにいると申し訳無い気持ちになる、ああああああ、キョウがあの路地裏で、路地裏で、死んで、呵々蚊たちは、知らずに。


あ。


「捕まえた」


「あ」


眠っていたはずのキョウが目を見開いている、そして呵々蚊の腕を掴んでいる、腕をへし折るような握力。


「え、あ」


「誰の事を考えてたの?俺以外の女?」


そ、んな目で呵々蚊を見ないで欲しいナー。


うれしくなる。

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