第270話・『母としての務め、狩りの教え方』
食料の補充はどうしようかと悩んでいたが心配無いようだ、ガジュマルがこれだけ自生している事がその証明となる、古都のあらゆる場所に存在している。
ガジュマルはその実を鳥やコウモリ等に餌として与える、その糞の中に混ざった未消化の種子が土台となる低木や建物や岩塊などの天辺で発芽するのだ、幹は多数分岐を繰り返して繁茂する。
囲からやや褐色の気根を地面に向けて伸ばしてゆく、そうして垂れ下がった気根が少しずつ土台や自分の幹に複雑に絡んで見る者を圧倒する派手な姿に変化してゆくのだが問題はそこでは無い。
鳥やコウモリがいる、つまりは食料がある、それがわかっただけでも嬉しい、糞を確認するとコウモリのものが多い、ササや影不意ちゃんの知識を検索する、知識は別に一部の能力では無いからセーフだよな。
コウモリにはオオコウモリ亜目(大翼手亜目)とコウモリ亜目(小翼手目)が存在する、オオコウモリはその名からわかる通りコウモリの仲間でオオコウモリ科の一科のみが存在している、翼を広げた姿が2mに達する種もいる程だ、食い応えがありそうだ。
体から音波を出して獲物を捕獲するのでは無く発達した視覚で植物性の食物を探すらしい、主に果実を好む性質から農業従事者の多くは害獣として扱っているらしい、オオコウモリは音波による反響定位を行わないのが最大の特徴だ。
「糞もデカい、オオコウモリか、流石に音はしなかったけど夜中に飛んでいるのか?食料も心配だし今晩は捕獲しよう」
『コウモリを食べるのデスか?』
「うん、美味しいぞ、しかも果実を食べてる奴の肉は柔らかくて香ばしい」
『エルフとどっちが美味しいデス?』
「え」
『コウモリとエルフはどっちが美味しいデス?赤ちゃんの好みを知るのも母親の務めなのデス』
「え、エルフかなぁ」
『ふんすふんす』
「興奮しないでくれ、だってエルフライダーなんだから仕方無いだろ?あんなに柔らかくて美味しくてバカで俺の為に存在している生き物なんか――くふふ」
誘発されるように興奮する、股を擦る、しかしこの古都にはエルフはいない、コウモリしかいない、残念な事だけどコウモリを食べるしか無い、エルフライダーの本能が母親によって刺激される。
お母さんはどうしたいんだっ、俺をどうしたいんだっ、キクタもキョロもキョウも何処にいるの?お母さん優しい、なのに時折こうやってエルフライダーとしての自覚を促す、どうしてそんな事をするの?
こうやって二人一緒にいるだけで幸せなのに、キクタ、キョロ、キョウ、早く出て来い、早く、回線、促されると頭が痛くなる、体をくの字に折り曲げて荒々しく息を吐き出す、嫌だ、今は、グロリアに言われた事を。
『魔物が人間を真似るのは苦しいのデス、自分よりも弱い生き物に擬態するのは自尊心を傷付けるのデス』
「っあぁ、は、早く、そう、お母さんに言われた意味もわかったから、魔物の糸を―――――」
『でも赤ちゃんが人間の真似をしているのはもっと苦しそうデス、可哀想可哀想可哀想、どうして人間の真似をするのデス?』
「お、おれ、だ、だって、に、人間だもん」
『人間じゃ無いデス』
「人間だもん!」
『人間では無いのデスよ?そうやって苦しそうにしているのがお母さんには辛いのデス、お母さんの前なのデス』
「い、嫌だ」
『気負って人間の真似をしなくて良いのデス、魔物の子宮で育った可愛いエルフライダー、あの三人を封じているのは自分デス、わかっている癖にデス』
「あ」
『野宿の痕跡からエルフの匂いがしているデス、どうしてそれを嗅いでも人間の真似をするのデス』
「ああああああああああああああああああああああ」
どうしてってどうしてだろう、どうして人間の真似事をして人間の範疇で色々と予測しているのだろうか?エルフを食べるのが嫌なのか?この間のアレがまだ?一つの集落が消えた。
姉妹を狂わせて集落を襲わせて全てを美味しく頂いた、エルフを沢山食べたんだ、今までで一番食べた、凄く満足だった、満腹で幸せだった、全ては自分や他の人格が組み立てた計画の通りに。
お腹が一杯なのは初めて、エルフライダーになってエルフでお腹一杯なのは初めて、でも、でもそれで良いんだったけ?それが正解なんだっけ?
「お、おれ、たくさんのひとを」
『エルフを食べましょうね、お母さんが見ていてあげるデス、前と同じように、何度も練習しましょう、餌を追い詰める練習を』
「い、いや」
『駄目デス、獲物を一人で狩れるようにならないと生きていけないのデス、大丈夫、大丈夫』
「うぁ、やめて」
やめて、頭の中に触れないで。
白魚のような手で触れちゃ、だめ。
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