第269話・『愛情深いけど性的でもあるとは』

古都の中心にある楼閣を目指して足を進める、魔物に遭遇する事が無いのはお母さんの愛情のお陰、自分を成長させる為にこの古都に足を踏み入れたのに何だかな。


俺以外にも冒険者が来ているのかな?焚き火の跡があったので観察する、古都には建物や生活品で使われていた木材が転がっている、ソレにナイフや鉈などで細かく刻む様にして笹状に傷をつけている。


真っ黒になったソレを手で掴んで注意深く見る、濡れた表面を丁寧に削ぎ落とす事で乾いた内部を露出させて表面積を倍増させる、それによって着火性を高めている、正しい焚き火の仕方、偉そうには言えないけどさ。


木材が足りなかったのか古都のあらゆる場所に自生している樹木を切り落として使用したようだ、乾燥した木材が燃焼している周囲に格子状にした生木を乾燥させながら火を大きくしたようだ、魔力を扱える者では無いのか?


魔法使いなら一瞬で火を出して終わりだもんな、首を傾げる、焚き火の大きさで何人いるか判断しようと思ったがそれも出来そうに無い、焦げた地面を足で広げるようにして周辺に伸ばしている、用心深い、魔物相手にじゃないよな?


ここの魔物にそれだけの知性があるとは思えない、現状では人間に対して不信感を持つ魔力を持たないであろう職業の人物としか判断出来ない、しかもそれも憶測だしな、何処かで出会う事があるだろう、何せこのクエストは未だに誰も攻略していない。


昨日寝ていた時に周辺を確認したが焚き火の明かりは見えなかった、障害物が多いし仕方無いか、逆に俺がいる事はバレてしまっただろうか?別にバレても良いのだが向こうが秘密主義なら俺も秘密主義でいたいぜ、妙な対抗意識。


『何をしているデス』


「お母さん、キクタと二人は休んでいるのか?」


『ぎゃーぎゃー五月蠅いデス、キクタがそれを宥めているのでデス』


「…………回線切っといて良かった、耳障りなんだぜ、女の子のヒステリックな声はさ」


『ぎゃーぎゃー』


「お母さんは耳障りじゃないから安心してくれ、ほれ、焚き火の跡だ、まだ新しい………な?」


『人間は器用デス、これがどうしたのデス?立ち止まって観察する程のモノとは思えないデス』


「そうか?人間は同じ人間の事が気になるのさ」


『赤ちゃんは人間じゃないデス、エルフライダーデス』


「っ、そ、それは」


『ふふっ、自分を否定しても良いことは無いのデス、エルフを狂わせて壊して捕食する、それで良いと思うデス』


お母さんは肯定してくれるけど何だか寂しいぜ、俺は人間じゃ無いのか?でも人間として生きたいと思っている、あまり考え過ぎると頭が痛くなる、ほら、俺って頭悪いからさ。


暫く周囲を探索してみるが何も見付からない、可愛い女の子だったら良いなぁ、浮気では無いぜ、でもグロリアがいないので何だか期待しちゃう、女の子だったらお近づきになりたいぜ。


その場を立ち去る、クワ科の常緑高木であるガジュマルが古都の中にある建物を侵食している、『絞め殺しの木』と呼称される植物の代表的なモノだ、岩を突き破り他の樹木を薙ぎ倒す程の生命力に満ちている。


熱帯に広く分布するイチジク属やツル植物たちの俗称であるが良いネーミングだと思う、他の植物や岩や建物の基質に巻きつくようにして絞め殺しながら成長するのが特徴だ、古都を歩きながらその生命力に感心する。


ここはガジュマルの楽園だな、宿主植物を百パーセントの確率で絞め殺すという共通の特徴を備えた『絞め殺しの木』はまるでヘビのようにトグロを巻いている、イチジク属のモノが代表的で多くの熱帯雨林に見られるのだがここは異常だ。


「宿主を殺すとか酷い奴だぜ、木材としてはそこそこ使えるけどよォ」


『そうデスか?ちゃんと殺してあげるのデス、幸せだと思うデスよ』


「寄生してるのに?……寄生?」


『ふふ、どうしたデス』


ガジュマルの枝には輪状の節が幾つもある、葉は楕円形でいて卵形にも見える、革質で分厚くて毛は存在しない、それに手で触れながら首を傾げる、寄生?俺も麒麟に寄生したよな、懐かしい、ザーザーザ―、した、よな、砂嵐で視界が乱れるがどうにか意識を飛ばさずに耐える。


もしかしてあの魔剣の魔物も何かに寄生されているのか?それで強制的に操られている?あの蜘蛛の足のようなモノが怪しいと思っていたがそもそも蜘蛛って……糸?何だか少し答えが見えたような気がする。


「お母さん、わかったぜ」


『ふんすふんす』


「ど、どうして鼻息が荒くなるんだぜ?」


『我が子の成長に興奮しているのデス、性的に興奮している可能性もあるのデス』


「そ、そうか」


『えっへん、愛情深いのデスよ』


「う、うん」


性的に興奮するのは愛情じゃねぇぜ?

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