第266話・『母性殺意』
体を猫のように丸めて寝る赤ちゃんを見ていると心がおかしくなる、おかしい?そうデス、この可愛い娘を子宮に戻したくなる。
そしてまた慈しんで愛して成長させる、外の世界で生きるにはあまりに不器用で無垢で残酷な生き物デス、レクルタンの中にいる時は何も心配し無くて良いデスよ?
お腹を擦る、寂しい、こっそりこの娘をお腹の中に戻したい、他の一部からは批判されるだろうし赤ちゃんの別人格からも叱られるだろう、しかし欲求として確実にある。
レクルタンの中だと餌の心配も無いデスよ、どうしても彼女を自分の中に戻したくて様々な角度でお腹に戻すに値するモノを探してしまう、寂しい、彼女がいないお腹は寂しい。
結局、子宮に戻したいのは赤ちゃんを独り占めしたいから、理由は自分でもわかっているデス、疼く母性、激しくなる支配欲、母親としての本能と魔物としての本能がレクルタンの脳を刺激する。
お腹を擦る、すると赤ちゃんはクスクスと笑いながら甘えるように頬を寄せて来る、ふわ、甘い匂い、ミルクのような匂い、お風呂に入れなかったのに良い匂い、頬を擦り合わせる、ツルツルのプニプニなのデス。
まさに赤ちゃん、無垢な表情で寝ている、涎も出ている、しかし彼女の美貌は何一つ変わら無い、流石はレクルタンの赤ちゃん、しかしこんなに可愛いと色々と不安デス、し、将来の事とか、結婚相手デス。
いきなり結婚したいと目の前に連れて来るのだろうか?想像しただけで心が真っ黒になる、嫉妬、不安、略奪された事への激しい怒り、殺意殺意殺意殺意殺意殺意、憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪。
「んにぁ」
「あ」
猫のような声を出してさらに丸まる赤ちゃん、外敵から身を護る為にどんどんどんどん丸くなる、大丈夫だよと背中を擦ってあげる、頬をペロペロと小さな舌で軽く舐めてやる、少しでも不安が無くなるように、少しでも幸せになるように。
何度もそれをすると少しずつ丸まったソレが元に戻ってゆく、ダンゴムシから人間になる、子猫から人間、レクルタンの赤ちゃんからレクルタンの赤ちゃんに、寝言を言いながら薄く微笑む姿がとても可愛い、どのような顔でも全て可愛い。
本来なら彼女の為にここの魔物を全て排除しても良い、同族?確かに魔物だから同族だ、同じ魔に属する闇の眷属だ、だけどそんな事はどうでも良い、レクルタンの赤ちゃんにとって価値があるかどうかで全てを決める、だってレクルタンは母親だから。
「おか、さ」
「ええ、貴方のお母さんデス……人間だって、エルフだって、魔物だってお母さんが殺してあげるのデス」
「……………もっと」
「え?」
「……………もっと、もっと」
「赤ちゃん?」
「もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと」
「ァァ、そう、デス」
「もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと」
お前の価値はそれだけかと突きつけられる、呟いた言葉に含まれた愛情では赤ちゃんは納得しないようデス、ハッ、目を大きく開いて周囲を見渡す、赤ちゃんに抱き締められている、抱き枕のように。
先程の赤ちゃんの声は幻聴、なのに純然たる事実として今でも耳の中に木霊している、月の位置は高い、天幕の隙間から差し込む光りが二人を柔らかく包んでいる、今の声は一体?強請っていた、強要していた。
しかし主語が無かった、何がもっとなのデスか?自分自身の不甲斐無さに腹立つ、母親として赤ちゃんの事は全て理解していたい、それなのにあの言葉の意味をすぐに理解出来無い、何をもっとデス?何が欲しいデス?
それはやはり魔物の根底に関わる事だろうと理解して笑う、何時だって彼女は捧げろと口にする、娘の為に母を捧げろと口にする。
「魔王だって、殺してあげるデス」
「―――――――――――♪」
正解、愛おしい娘は最高の笑みを浮かべる、何時だって不安な赤ちゃんは他者にとって大切なモノを蹂躙する事で自分の価値を再確認する、かつては母の為に生きた、魔王であった母の為に生きた、しかしそれは遠い過去の事だ。
母との記憶も薄れてしまった、娘との記憶は増えてしまった、それが結果だ、今ある彼女に全てを捧げる、お腹を痛めて産んだ我が子が健やかにあるようにかつての自分を否定する、ああ、娘であった頃より母である今を選択する。
「ころせ」
「はいはい………任せて下さいデス、だから」
「――――――――ぐすっ」
「泣かないで、愛しい子」
歪んでいるのはわかっている、壊れているのもわかっている。
でもそんな我が子を愛せるのは母親しかいないのデスよ。
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