第264話・『キクタは役立つ、キョウとキョロは邪魔、すげぇ邪魔、俺そのものの二人だけど邪魔』

立て掛けたファルシオンを指で突くが反応は無い、ファルシオンから発生した紫色の粒子が敵の魔剣に触れた途端に糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


一応その死骸?とも言える魔剣を回収したのだが魔力の欠片も無い、グロリアから野宿の際は一部を一人だけ解放しても良いと言われている、条件が甘いのか甘く無いのかわからんな。


古都の夜は冷える、体を小さくして溜息を吐き出す、しかしそろそろ一部の能力を見極めて選択しないとな、やっぱり妖精の感知か麒麟の雷光だな、前者があれば戦いを避けれるし後者があれば無双が出来る。


懐から取り出したのは鉄の硫化物である手頃なサイズの塊状の黄鉄鉱、ここに来るまでに拾った硬石に削るように打ちつける、赤熱した火花をが出るまで根気良く何度もその行為を繰り返す。


その火花を乾燥したキノコに着火させて少しずつ火を大きくしてゆく………火口には様々な種類がある、朽ち木や枯葉を練ったモノや消し炭や灰汁で処理した蛙の穂綿、俺は乾燥キノコを好んで使う。


火を炎にする為に硫黄附け木を少しずつ足してゆく、炎を見ていると落ち着くな、そして腹が減る、魔物の生息地なだけあって他の生物の気配は乏しい。


「古都に入る前に仕留めた野鼠の肉を炙って食うか」


木綿や麻の破片や消し炭、さらに灰汁や硝酸カリウムで漬けた植物の綿毛や動物の排泄物を乾燥させたものを投下、火はすぐさまに勢いを増して輝き出す、ササや祟木の知識は役に立つ、何も無い俺に様々な道具を作る知恵を与えてくれる。


欠伸を噛み殺しながら炎を見詰める、様々に変化する炎の色合いは見ていて飽きる事は無い、しかしファルシオンのあの力は何だったのだろう?魔剣を無効化した?妖精の感知が使えないのでどのような原理で敵から魔力が消えたのかわからない。


死骸になった魔剣を振り回しても何の生気も感じられない、刀身を地面に突き刺しても何の変化も無い、能力そのものが消えたようだ、しかしモノは良いので高値で売れるだろう、グロリアの奴、それもわかってて俺をここに案内したな?


「不思議な都だな、夜は魔物が襲って来る気配が無い、月の光の下はあいつ等の世界のはずなのに」


『それだけちゃんと管理されているって事でしょう?親玉にね』


「正々堂々と太陽の下で戦おうってか?馬鹿馬鹿しい」


『お、もしかしてそれで正解かもよキョウ、全てを否定する事は無いわ、直感って大事よ』


「そ、そーか」


『キョウの直感はバカにしたものでは無いわ、相手が明確な意思を持っている事は確実、だとしたら人間を相手にしているぐらいの感覚で良いかも』


「わかったぜ、ありがとうキクタ、何時も助かる」


『いえいえ、今日はもう休みなさい、キョウとキョロに切り替わっても良いし一部を出しても良い、確か一人だけ野宿の際は護衛に使って良いのでしょう?何だかんだで過保護よね』


『き、キョウは可愛いよ、凄く可愛い!』


『キョウさんは何時も美しい、失明するぐらい美しい』


「キクタに対抗しようとしても無駄だぞ、褒め方が雑」


『『?!』』


そもそも同じ顔だぜあほんだら、キクタに対抗しているようだが褒めるポイントが的外れだぜ、しかし一部かぁ、誰を取り出そうか悩むなぁ、ぶっちゃけ抱き枕としても使うしな!寝心地って大事だよなっ!


野鼠の肉を経木(きょうぎ)の中から取り出す、ヒノキを柔軟性が出るまで鉋(かんな)で薄く薄く削ってソレを軽く火で炙って消毒した包装紙だ、旅先で作れるし保存にも役立つ、抗菌、防腐作用、通気性の三拍子揃った優秀な道具だ。


臭みは無いか匂いを嗅いで確認する、そのまま木の枝に刺して焚き火の周りに囲む様に配置する、肉汁が溢れて火花が散る。


「うめぇうめぇ、色々食べたけど野鼠の肉が一番うめェ」


『良く噛みなさいね』


手早く食べ終えると天幕(てんまく)の設置をする、本来なら太陽の下でするのだが間に合わなかったし魔物の細胞が混ざり合った俺は夜でもあまり暗さを感じない……一般的にママリー・テントと呼ばれるソレをテキパキと組み立ててゆく、居住性を損なってでも軽量を優先するその造りは長旅に重宝する。


ポールは付属しないでピッケルを逆に立てて設営する、星の煌めきが見詰めながらもう一度欠伸をする、何だか今日は疲れたな、気負い過ぎたのだろうか?ファルシオンの件もある、あの力は何なのだろうか?疑問は幾らでもある、しかし夜に考え事をしても答えは出ない。


「ふぁ」


『あら、眠そうねキョウ』


『早寝早起きは美少女の証だよキョウ!』


『だ、そうですよキョウさん』


「うるせぇ」


『ひぃいいう』


『こらこら、あまり自分自身を苛めたらダメよ』


「うん、わかったキクタ」


『キクタには素直っっ!?ううううううう』


『へえ、そんな感じなんですね、キョウさん』


どんな感じかわからんがもう寝るぜ、キョウのばーか。


嫉妬しなくても良い、お前が一番だよ、言わないけど。

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