第263話・『すごいぞ僕らのファルシオン』
剣に昆虫のような足が生えていてキモイ、床を転がりながら敵の襲撃を躱す、地面に深々と突き刺さった魔剣の周囲の地面が砂のように砕ける。
散り散りになって風に消えるソレを呆然と見詰める、体に当たればどうなるのだろうか?想像していたよりもまともなフォルムだな、キモイけど。
あいつを倒せばあの魔剣がそのまま手に入るって事だろう?しかし建物の上の方から落ちて来たよなぁ?もしかして見張られていた?キクタの『避けて』が無かったらやばかった。
「キモイ」
『そうね、キモイわ』
『わ、私も気付いていたけど少し咳き込んで』
『私は気付いていませんでした、えっへん、素直さを評価してください』
『わ、私は本当に気付いていたもん、わかるよねキョウ!』
「うるせぇ」
キョウとキョロがぎゃーぎゃー脳裏で騒いでいる、俺自身である二人が邪魔をしてどうすんだよ?キクタは相変わら頼りになるな、このおバカ二人と違ってな!
相手を観察しながらファルシオンを抜く、粘着毛を持った足で建物の壁を平気で移動する敵、こちらの都合なんて知らねぇもんなぁ、俺は壁を垂直に移動出来ないんだぜ?
建物の壁を移動しながら俺の死角を探っている、それがわかるから俺も硬直したまま相手の出方を探っている、そして脳内でぎゃーぎゃー騒ぐ二人を無視している、凄く五月蠅いです。
『キョウ、少し肩の力を抜いた方がいいわ、どっちみち刺されようが切り裂かれようが即死は無い、貴方の肉体をあの魔剣では消滅させられない』
「そう、か、死ぬ事は無いのか」
『死を忘れると戦闘に不利だけど、死を自覚しながら死なない事も自覚するのであれば問題無いわ』
「死なない事を利点にしろって事か」
『少しは大胆な行動に出ても良いんじゃないって事よ』
励ましなのかアドバイスなのかわからないがキクタの言葉を脳裏に刻む、敵である魔剣の攻撃はどうも派手だ……地面に突き刺さる瞬間には甲高い音もするし振動も中々のもの、仲間が救援に来たら少し手こずりそう。
だったらここでさっさと仕留める他に無いな、多角的な攻撃に物質を砂塵に変える力、地面に突き刺さっていてもすぐに周囲を砂塵にして抜けてしまう、移動速度も中々だ、敵としては手強いしめんどくさいタイプ。
避けながら柄の部分を思いっきり蹴り上げる、しかし柄から生えた足を広げて空中でバランスを保っている、蜘蛛のような奴、そして傘のような奴、舌打ちをしながらファルシオンを構えると細かくカタカタと震える。
同族を前に興奮しているのか?お前はまだ魔剣になっていないんだからあっちの方が先輩なんだぞー?ついつい笑ってしまう、自分の愛剣が愛犬のように思えてしまう、意思は芽生えているものな?ファルシオンで弾く。
相手の能力によって砂塵になるかと思ったがそれも無いようだ、ファルシオンから放たれた瘴気が能力の干渉を拒んでいる??妖精の感知が使えたらすぐにわかるのにな、いやいや、使っても良いけどこの古都をそれだけでクリア出来るか?
「ファルシオン凄いぜ、流石は俺の愛剣」
『異端を狩り過ぎたせいで魔剣に変化するだなんて珍しいわね、最初から魔剣として生み出されたわけでは無いのね』
「沢山殺したからなー、血も油も染み込んで良い塩梅だぜ」
『相手を斬り殺すのでは無くて叩き殺すファルシオンだから切れの悪さも関係無いしね』
「そうだぜ、重みと厚さでねじ伏せる」
グロリアに初めて貰ったプレゼント………長旅の中で俺と一緒に成長したファルシオン、量産品であり時には日用品として扱われる刃物が魔剣になろうとしている、親心のようなものが芽生えて何だか感動してしまう。
もっともっと強くなれファルシオン、殺して殺して強くなれファルシオン、お前のご主人様である俺も殺して殺して強くなったんだ、ふふ、お揃いだな、お揃いって何だか嬉しいな、お前はもう一人の俺のようなものだ。
カタカタカタ―――――――――――――震えが止まる。
「ファルシオン?」
『キョウ、上』
『わ、私の方が早く気付いていたよォ、キョウ!上だよ!』
『じゃあ私は下です、ぷぷぷ』
「二人いらねぇなオイ!」
ファルシオンを盾のようにして攻撃を受け流す、そうしようとした瞬間にファルシオンが怪しく光る、紫色の粒子が宙を舞う。
「ふ、ファルシオン?」
光が弾けた。
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