第257話・『手汗はエロい、エロくてかわゆい』

夢見続けて来たご主人様はあまりに無垢で穢れの無い人だった、余の育てた姉妹に殺し合いをさせてクスクスと笑う。


エルフはこのお方に奉仕する為の存在なので全ては仕方の無い事だ、そして余もこのお方の一部になれた、ずっと望んでいた未来、通りすがりのこのお方は余をあっさりと救ってくれた。


尽くせよ、キョウさまはそう言った、キョウ、呼び捨てにしろと強要するのは何故だろう?キクタさまならまだしも余がそのような事を出来るわけが無い、精神をすり減らしながら何とか口にしている。


キョウさまは美しい、深く暗い森の中でもこの一帯だけが輝いているようだ、地上に舞い降りた太陽、いや、儚さもある、地上に舞い降りた三日月、欠けている部分はこのお方の孤独だ、寂しそう、癒してあげたい。


エルフライダーはエルフを食べる生き物、エルフの心が混乱の極みにある程に栄養価は高くなる、このような所業も生きる為に仕方が無い、エルフ以外の生き物ではその体を維持出来ないのだ、生きる為に食べる、人やエルフと同じ。


この森の奥に逃げ込んだ集落の生き残りを追っている、あの姉妹が殺し合いを終わらせてキョウさまの前に来るまでには時間がある、それに状況は二人の両目を通して確認している、既に二人ともほぼキョウさまの一部と化している。


それでいて殺し合いをさせるのだからこのお方は本当に無邪気だ、あの二人が想い合っていたのは知っている、姉妹の愛情、そこに割り込んで自分の方を愛しているのか確認をさせる、でも仕方が無いのだ、そうやって孤独を埋めて腹を満たす。


この体は人間だと10歳程度の容姿、勿論、キョウさまより身長も低く体も頼りない、しかししっかりとエスコートする、キョウさまは時折『心をお飛ばしになる』のだ、不安定な精神が一気に崩れて人間性を喪失させる、いや、これが正しい人間性か?


今は深い森の中、そうなってしまえばまともに歩く事すら出来無い、餌を求めている、このお方は餌を求めている、この森の奥へと逃げ込んだ幼い餌、それを献上する事で余はまた満たされる、例えそれが余に懐いていた童だとしても容易に捧げられる。


「その子供とは親しかったのか?」


「そうですね、何かと面倒を見ましたよ、親しいかどうかはわかりませんが懐かれていたとは思います」


「あの姉妹のようにか?」


「どうでしょう、あの娘たちは……き、キョウの為に特別厳しく躾けましたから、そこまでではありませんよ」


「ふーん、でも懐かれていたんなら悲しいな、俺が食べちゃうんだから」


「農家の人間は自分の育てた作物が味のわかる消費者の元へと渡ると幸せを感じますよね?」


「ああ、俺なら良いってわけか、しかしお前……表情は飄々としているのに手汗凄いな」


「も、申し訳ございません、ふ、不快ですし汚いですよね、手を――――」


「いい、このままでいい、気持ち悪く無いよ、そんなに嫌がるな」


「し、しかし」


「気持ち悪く無い、俺が可愛いから緊張してるんだろう?それって素直な気持ちじゃん」


「は、はい……余は、ずっと一人で、こうやって触れ合う事は」


「集落の連中は?」


「キョウの餌だと思って管理していましたから、家畜に緊張するバカはいないでしょう?」


「言うねェ、おっ、こっちからエルフの良い匂いがする」


くんくん、鼻を鳴らす、あ。


「お前の匂いが紛らわしい、バカエルフ」


「も、申し訳ありません」


「ふん、お前、良い匂いだからずっと俺の傍にいろよ」


「ぎ、御意」


「い、良い匂いじゃなかったら傍に置かないんだからなっ!か、勘違いするなよ」


「御意」


「……………………ふんっ」


「……お可愛い」


「く、下らない事を言って無いでさっさとお前の集落のガキを捧げろ」


「喜んで」


二人とも顔を真っ赤にして歩く、あっちの姉妹の決着もそろそろ――――。

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