閑話164・『うーうーうー』

優しく頬を撫でられる感触で目を覚ます、ずっと昔にもこんな事があったような気がする。


お母様、ぽつりと呟いた言葉に首を傾げる、その人とは会った事が無い、会いたいのに会えない。


なのにどうして頬を撫でてくれたと、そんな記憶があるのだろうか?目を開けるとそこにはキョウの姿。


違和感に目を瞬かせる、どうしてお母様だと思ったのだろうか?小高い丘の上でピクニック、俺は遊び疲れて眠ってしまった。


キョロも来れば良かったのに、どうにかキョウと仲良くして欲しくて呼び掛けたけど無駄だった、キョロはキョウに会う事を嫌がる。


どちらも俺なのにおかしいの、キョウは俺の事を凄くお母様と似てるって言う、でもそこで初めて疑問が生じる、キョウは俺の過去の記憶を多く保有している。


お母様の記憶があるって事はお母様と会った事があるの?頬を撫でる腕を掴んで低い声で唸る、干渉、キョウの記憶を読み取る、共有している記憶はほぼ同じ、でももっと奥の方に!


黒い影が映像に切り替わる、その瞬間、ばちっ、回線が一瞬で切断される、キョウだけじゃない、もっと他の何かを感じた、キクタもそこにいた、みんなで俺を弾き出した!


「ひう」


「だぁめ、キョウ、何を覗こうとしたのォ?」


「べ、別にー、何でも無いよー………キョウだけじゃ無かった、あの俺に甘いキクタまで酷い」


「それだけ大事にしてるんだよォ、それで?何を覗こうとしたのォ?」


「う」


「う?」


「うんこ!」


「へえ…………それじゃあ、ここでキョウのを覗こうか」


「どの穴!?もぉ、やだやだ、キョウったら意地悪ばっかり、俺の事が好きじゃ無いのかよぉ」


「好きだよ、キョウは精神が不安定だから開示する記憶選びも大変なんだよ?全部忘れたままだと可哀想だしね、ちゃんと考えてるから」


「うう」


「私がキョウの事を何時も考えてる、この言葉じゃ不安?」


「ううううううううううううう」


キョウを覗こうとした俺が悪いみたいな、何だかそんな風に感じてしまう、どうしてキクタまで駄目って言うの?キクタは何も言ってくれない、あ、キョウとキクタが仲良しさんなんだ。


仲間外れにされたようなそんな気分、仲間外れは嫌だ、キョウは俺なのにどうして仲間外れにするんだろうか?同じ俺なのに同じエルフライダーなのにどうしてそんな酷い事をするの?


「きょう」


「……か、考えている事が垂れ流し状態だよォ、んふふふ、キクタは嫌いだよ」


「?うそだ」


「ホント、でも利害が一致していれば協力もする、私もあいつも同じお姫様に仕えている騎士だからねェ、そりゃ、気に食わなくても協力ぐらいするよォ」


「うそだうそだ」


「んー、どうしたのキョウ?私の言葉を信じてくれない?何が不安なの?」


「うぅ、き、キクタと二人で、俺に内緒で仲良くしてるんだ、うぅ、おれだけ、おれだけ、だってふたりともきおく、みせてくれないもん」


キョウからは良い匂いがする、でも今日は何故かそれが疎ましい、二人は仲が悪いと思っていた、でも今は二人協力して記憶の干渉をかき消した。


キョウとキクタは仲良し?おれは、おれは、だいすきなふたりの。


「見せないよ、でも大丈夫、私の一番もキクタの一番もキョウだよ、そもそも私はキョウ以外はどうでも良いし、キクタも同じじゃないか」


「うーうー」


「うーうー言わない、そうだ、キョウが見ても大丈夫な記憶なら良いよォ」


「お母様!」


「駄目」


「もう一人のお母様!」


「駄目駄目」


「うーうーうーうー」


「……ご、ごめんねェ、うーうー言って良いよォ」


うーうーうー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る