第256話・『逃げたエルフはどのエルフ、震えるエルフ、震エルフ、震エルエルフ、フルエルフ』
互いに想い合っていた姉妹が殺し合いをするのは見ていて楽しい、遠視しながら薄く微笑む、しかし口だけだな、集落のエルフを全て狩れと尾に命じていたのに一匹逃がしてるじゃん。
視界をこちらに戻す、尾に寄生された姉、俺の中で再構築した妹、どちらの視界も共有出来るので便利だな、だけど逃がした餌は俺がちゃんと責任を持って狩らないとな、面倒な事だ、実に楽しい。
自分の集落のエルフを襲う手伝いをさせる、長老だった久々利拿は耳をピコピコさせながら餌を追っている、俺の為に餌を探してくれているのだ、この森に逃げ込んだ餌をなぁ、長老が裏切り者とはきついきつい。
集落で一番の戦士も裏切って集落を崩壊させたし、有望なその妹も裏切って何も手助けをしなかった、長老であるこいつは狩りの道具でしか無い、お前を慕っていた生き残りの最後の一匹を俺に献上するんだぞ?ひひ。
「顔は見たか?」
「キョウ、足元に気を付けてください……見ましたよ、余の顔を見て急いで駆け寄って来て……お前を餌にすると言った途端に逃げ出しました、あの姉妹の様子は?」
「お前の可愛い姉妹は俺の為に殺し合いをしているよ、もう、お前の姉妹じゃない」
「ええ、良い仕上がりなようで」
「……お、怒らないのか?一応さ、大事な奴らだったんだろう?」
「さあ、余にとって大切な存在は創造主であるキクタさまとご主人様であるキョウさまだけです」
「呼び捨て」
「き、キョウだけです」
手を引いて貰いながら睨む、すぐに撤回するのは流石だがどうも自然では無い、もっと恋人っぽくメロメロにさせたい………こいつを製造したキクタに聞いて見るかっ!中々の名案だぞ、しかしこの森は暗くて深い、奥に行けば行くほどに視界が狭まる。
木々が風に吹かれて靡く様子が海原でうねる波のように見える、あまり長く見ていると頭がどうにかなりそうだ、エルフの集落のさらに奥には凶悪な魔物が生息しているらしい、それでも集落がこいつの手腕で潤う前は魔物も狩って売り物にしていたらしい。
獣でも魔物でも肉は肉だし皮は皮だ、しかしまだ若い森なのにこのように不安を煽るのは止めて欲しい、手をぎゅーっと握ると久々利拿が目を瞬かせる、こいつには強力な魔法があるし知恵もある、俺を護ってくれる幼女、キクタのクローン、頼むぜ?
ツガやヒノキを中心に構成された森は深く広い、ハリモミ、ヒメコマツ、アカマツなどの針葉樹も幾つか見える、ミズナラも含む広葉樹の混合林、しかも人の手がほぼ加えられていない原始林だ、森の中は大好きだけどここまで複雑な森はやはり不安だ。
「どう、なさいました?」
「え」
「いや、余の顔を見る姿がまるで童が不安を訴える表情と似ていたので」
「っーーー、何でも無いもん!」
「もん?」
「うるさい、ちゃんと案内しろよ、俺はお腹が空いてるんだ、そいつを食って元気になるんだ」
「え、ええ、余が悪いのであれば言って下さい、改めますので」
「久々利拿は悪く無いぜ、わ、悪いのは俺だ……あまり見るな」
「お可愛い」
「うっさいなぁ、もう」
「お可愛いです、余のご主人様」
「うっさいって!餌はこっちか?」
「そこにヘビがいますよ」
「ひぃ、おっ、焼いて食うか」
「…………驚いた顔も愛らしい、そして逞しい」
「ん?」
案内されるまま足を進める、溶岩の上に出来たこの森は地中に磁鉄鉱を多く含むらしく妖精の感知が乱される、この能力にも弱点があるんだなー、しかしこいつが見たってエルフの女の子、こんな奥まで一人で入って大丈夫なのか?
「餌の名前は?」
「ロトの娘のサエズリ、今年で10歳になりましたかね、食べ頃だと思いますよ」
「そうか、お腹が減った、お腹が減るのは悪い事だ」
「すぐにサエズリを献上しますので、余の集落で育った娘はどれも食べ頃でお気に召すかと思います」
「ふ、ふーん」
「貴方様の為に用意しておりました……ずっとずっと」
「あ…………あんがとな」
ポツリと自然に呟いた、すると久々利拿は優しく微笑んだ。
何故だろう、もっと恥ずかしくなった。
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