第255話・『変身お姉さま、うわ、うわぁ』

キョウの尾によって身体能力も強化されている、メリメリメリ、妹の体に食い込んだ自分の爪先を見ながら苦笑する、確実に痛みを与えて部位破壊する蹴り、接地面が少ないので対象はそこまで吹き飛ばないはず。


なのに妹の姿が一瞬で遠くなる、以前までの自分の身体能力と比較にならない、血を吐きながら転がる妹を歩いて追い掛ける、決して走りはしない、姉妹の戦いなのだ、急ぐ必要は無い、キョウが見ているんだろう?


酸素を取り込もうとする荒い呼吸、全身を震わせながら立とうとする姿はまるで産まれたての小鹿のようだ、蹴り技が得意では無いのだがな、ふふふ、多くの同胞を殺したこの地で妹を蹴り殺せる?愉悦に塗れる。


しかし妹の視線は何処までも鋭い、私の言葉が気に入らないのだろう、それはこちらも同じだ、お前はどうやってキョウと知り合った?あの山小屋からキョウを盗んだのはお前なのか?あそこは狭いながらも素敵な我が家だったのに。


「飛ぶ飛ぶ、ふふ、もっと肉を食え、軽いぞ」


「え、エルフは―――あまり肉を好まないでしょう」


「だが食う、お前のその貧相な体でキョウを護れるのかな?疑問しか無いぞ………まあ、私があの子を一生護るからお前はいらないよ」


「エルフライダー様を呼び捨てにするな、エルフモドキ」


「モドキか、良い言葉だ、そうかそうか、ではお前はキョウの一部モドキだな、異常な振る舞い、おかしな言動、そうじゃない、問題は」


「何が言いたいのかな」


「お前は精神まで崩されていない、逆に私は肉体はこうなってしまったし、精神も少しずつ侵食されている、どちらがより一部に近いのかわかるだろ」


「それ、でも、それでもっ!恋心を与えられたこの身でこの精神で任務を完遂するっ!」


「恋い焦がれるか、変わったな、お前は何時も自由だったのに」


「恋をすれば与えられた小屋だって自由に感じれる」


「そうか、奇遇だな、私も恋をしている、妹にその人を奪われるわけには行かないので悲しいけれどここで死んでくれ」


「こちらの台詞だよ」


電光を撒き散らしながら飛翔する、耳の中に木霊する重低音、何をしようとしている?魔力を感じさせないのは魔力に変わる何かがあるから、麒麟と呼んでいたな?それはどのような化け物でどのような御業で電光を駆使するのか?


まるで空に輝く太陽のように光り輝く恋敵、空中に停止した状態で電光をこちらに向けて放つ、雷っっ、避けても空気に蜘蛛の巣のように広がって肉体を蹂躙する、か、考えたな、愛する人間の為に頭を使え、私を傷付ける事になろうがそれは良い事だ。


ここで姉妹が殺し合おうが関係無いのだ、どちらにせよキョウの手駒が充実するのは素晴らしい事なのだ、お前はそこまでキョウの事を考えているのか?我が身を引き裂く雷ですらキョウを想えば愛しく感じられる、この力でキョウを護るのだな、良い事良い事。


あの子は常に不安に苛まれている、愛されているのか、自分は一人ぼっちでは無いのか、この世界に一人だけの種族では無いのか、ご飯は何処だろう、ご飯が無いと死んでしまう、不安不安不安不安不安、涙に濡れた美しい瞳、私を見上げていた地上の星。


私が見ていない間に妹まで壊したのか?良かったなキョウ、こいつは自由奔放で風のような奴だ、集落を出て外の世界を知りたいと言っていた、自由な心と自由な感性、それが全てお前の糸に捕まってこの様だ、だけど本人が幸せそうなのでそのままにしてくれ。


体に走る衝撃、上空から何度も雷を飛来させる、こちらとしては対処のしようが無い、建物の影に身を潜めながら再生を急ぐ、太陽なのに雷とは自由な発想だな、泡立つ皮膚、ぺりぺりぺり、焦げた肉片が面白いように落ちる、焦げた肉の臭いに顔を顰める。


「エルフライダー様のお力が愚かなお姉さまを―――教育してあげる」


「お前がキョウに躾けられたようにか?」


「そぉ、あは、エルフライダー様の躾によって上手にエルフを殺せるようになった、エルフであるのに、エルフ殺しの得意なエルフ、それを望まれたの」


「それは私も求められている、エルフ殺しのエルフ」


「エルフを沢山殺せないエルフはエルフじゃない、エルフライダー様の為にこうやって同胞のエルフを焼き殺せるエルフだけが本当のエルフなの、躾けて下さったの♪」


「そうか、嬉しそうに言うな」


「お姉さまだってそうだよね!パン屋のカカレも建具屋のパルサも元気なハルレナもみんなみーんな殺して食べちゃったんでしょう?」


「ああ」


「みんな友達ぃ、エルフライダー様に愛情を伝えるには便利な友達だったね!!!あはぁ、便利友達、エルフライダー様の為に友達を殺したと、そう伝えたら、きっとあのお方は天使以上の笑みを、ああああああああああああああああああああ」


「何故お前が喜ぶ、さて」


キョウの視線を感じる、殺せ殺せ、俺の為に妹を殺して見せてェ、んふふふふふふ、お願いだよぉ。


肉体の全てがキョウの言葉に反応するように膨らむ。


「おね、さま」


「―――――――――――ギィ」


変わる、キョウの為にエルフの肉体すら捨てて。


エルフライダー専用の肉体にっ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る