第254話・『お姉さまはもういらないからもういらないから、いらない』

エルフの能力では無い、魔力の気配も感じない、全身に走った電流が皮膚を焼き肉を焼き骨を焼く、全身を焼かれる感触を味わいながら尾の力で再生する。


これでは最早どちらが主かわからないな、尾が私なのか、私が尾なのか、尾が尾なのか、最後のソレは完全なる自己否定だ、キョウの為なら自分自身でも容易に捨てられる。


どのような姿で自分が再生しているのか一度見てみたいな……眼球は剥き出しの臓器、一番最初に焼かれて蒸発した、視界を失うのは怖く無い、キョウを失う事が怖い、故に立ち上がる。


感嘆の声、何時も自分の背中を追い掛けて来た妹の声とは思えない蔑みの声、そうか、キョウにしか興味が無くなったのか、これでお前も私と同じ存在だ、恋い焦がれるエルフライダーに奉仕する生き物。


それでこそエルフだっ、お前も私もこれでやっと同じエルフになれた、そもそも私達はエルフですら無かった、キョウの手垢の無いエルフなんてエルフでは無い、それが理解出来ただけで二人とも幸せ者だよな。


「お姉さま、立ち上がる、か……麒麟様の電光でもコレとは、エルフライダー様の細胞の恩恵は素晴らしいね」


「立ち上がるとも、そうか、キョウの一部の力を譲渡されたか、ふふ、やんちゃな事をする、キョウ」


「様付け、しなさいと言っている」


「ほう、私に対して大層な物言いをする、お前の『お姉さま』だぞ?ははっ、お前は呼び捨てに出来無いか、キョウを」


「様付けしろぉおおおおおおおおお!」


麒麟の電光とやらが空気を焦がす、ここまで感情を見せるのは珍しいな、それだけ本気でキョウに恋い焦がれて私をも焦がそうとしている、再生した皮膚が黒く焦げた皮膚を押し出す、電光を躱しながら笑う。


恐らくこの電光、麒麟とやらが使えばもっと威力が高くもっと精度が高い、どれだけ素早い攻撃だろうが視線を追えば次の攻撃が何処に来るのかわかる、弓矢と一緒で、力を得ようが癖は変わっていない。


慧十十め、キョウの力をちゃんと使ってやれ、ダメな妹だ、キョウから頂いたモノは全て完璧に使いこなせ、お前は一部になったのだろう?尾で地面を叩いて高速移動する、バネのように捩じれた尾は非常に便利だ。


こうやって頭を使って戦うんだぞ、バネによる加速は最低限の予備動作で容易く行える、それでいて私の一部だ、神経が張り巡らされた肉塊は何処までも私の意思で自由に扱える、実に素晴らしい、電光は掠りもしない。


石垣やビンの破片が転がっている、少々暴れ過ぎたが地面の状況は関係無い、尾を接地させて足は使わない、飛び跳ねるように回避する、逆に慧十十は高速移動する私の動作と己の攻撃で吹き飛ぶ障害物を視線で追ってしまって集中出来ていない。


罅割れた建物が完全崩壊する、土煙が舞う、電光が四散する、その隙に一気に距離を詰める。


「ちぃ、え、エルフライダー様に敬意も持たない姉がっ、お姉さまっ!」


「そうさ、あの子と私は―――――あの山小屋で二人っきりで過ごした、お前と出会う前に二人っきりで何をしていたんだろうなぁ」


「おね、さま」


「何をしていたらあんなに懐かれて、尾まで貰えるのか、ふふ、お前も貰っただろ?どうした?」


「慧十十にはいらないっ、あのお方から頂いたこの恋心でお姉さまを倒す」


「倒せたらいいな、そう願うよ、キョウはどちらが勝てば喜ぶのだろう、ああ、はは、様を付けるの忘れた、まあ、許せ」


「お前」


紅が溶け込んだ淡く鮮やかな藤色の瞳は切れ長で鋭い、慣れ親しんだ瞳がより鋭くなるのを感じて笑みを浮かべる、赤色が主張する淡い紫色のソレは紅藤(べにふじ)と呼ばれる色彩だ。


その色彩が溶け込んだ瞳で何時も私を見ていたな、今ではキョウしか見えないか?染め色としても人気があるソレは若々しさを感じさせる色彩でもある、藍を薄く薄く下染めして紅花で丁寧に上掛けしたら紅藤(べにふじ)になる。


お前も私も若いから恋に狂うのは仕方が無い、集落を滅ぼそうと仕方が無い、同族を滅ぼそうと仕方が無い、顔も小さく肌も白く何処か鋭利な印象を見る者に与える妹、瞳も切れ長だしな、殺意に染まった視線が実に心地よい。


キョウに染まったのに今だけは私の妹のようだぞ、私だけを見ている、ふふっ、ははっ、髪の色は黒よりも艶やかで区別する理由には十分だ、黒漆のまるで濡れたような深く深く綺麗な黒色、呂色(ろいろ)だ、黒を基調としているのに淡く輝いている。


漆工芸の塗りの技術の一つの呂色塗が名前の起源だ、専門職の呂色師がいる程に複雑な工程と技術が要求される、蝋色とも呼ばれる美しい色彩の髪、雷光が走り髪が揺れる。


「お前、消えろ」


「無理だな、キョウにこの貯えた栄養を渡すまでは死ねないからな、はは、お前こそお姉さまに『お前』は無いだろ」


「お前は『お前』だろ、エルフライダー様に敬意を―――」


耳かけをしたショートボブが揺れる、私が褒めたからずっとソレなんだろ?


一気に間合いを詰めてそのまま横腹に尾を叩き込む。


「がっ!?」


「敬意?知らんな、胸を焦がす愛情だけは約束しよう」


私の妹は。


良く飛ぶな、ははっ。

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