第253話・『エルフライダー様ぁあああああああああああああああああああああああああ』

廃墟と化した集落で妹と向かい合う、そうか、お前が私からキョウを奪ったのか?あの山小屋で小さく震えるキョウをお前が奪ったのか?


だとしたら責任はお前にあるぞ、この集落が滅んだのも皆が死んでしまったのも責任は全てお前にある、キョウの一部になった?それは良かったじゃないか。


お前を殺せばそのポジションに私が……凄く簡単な事じゃないか、わかりやすいのは大好きだ、シンプルな答えだ、尾を雄々しく硬直させながら目の前の敵を睨む。


ああ、でもまだ妹なのか敵なのか自分でも判断できない、襲来した際にちょっとしたミスで集落全体に火が回ってしまった、あちこち焦げた黒塗りの世界で妹は微笑んでいる、すっかり変わったな。


私もお前も幸せ者だ、エルフライダーに、キョウに出会った事で己の使命を自覚した、きっとキョウがお前に私を殺せと言ったのも簡単な理由だ、姉妹の殺し合いが見たい、そうだろ?


あの子は自分が愛されているのかと常に不安の中にある、この世界でたった一人っきりの生物、故にその孤独に常に苛まれ常に仲間を求める、そして自分を愛してくれた者から全てを根こそぎ奪う。


そうする事で自分の方が愛されていると再確認するのだ、可哀想な女の子、そんな事をする理由なんて何処にも無いのに、だってエルフはエルフライダーを愛して奉仕する為の生物、私達がいるのに。


エルフではエルフライダーの孤独は埋めれない?だとしたらあの小さな女の子の不安をどうすれば解消できる?一緒に寝た時に思った、猫のようにダンゴムシのように丸まって眠るキョウ、触れてみると微かに震えていた。


彼女は私を狂わせた、そのせいで集落を滅ぼしても平気になったし仲間の断末魔にも何も感じなかった、そうだ、狂わされたけど恨んではいない、だってキョウは眠りながら震えていた、孤独、寂しいのだろうキョウ。


だから私や妹から全てを奪った、自分が欲しいと感じたエルフを手に入れて愛する者を奪って帰るべき場所を無くさせた、やり方はあまりに残酷で残忍で卑怯だ、だけどその胸の内は寂しがり屋の女の子が震えているだけ。


互いに想っていた姉妹を自分に夢中にさせて殺し合いをさせる事で自分の方が愛されていると自覚する、キョウ、そうやってでしか他人と交われない、そうやって他人を自分にしてまた孤独になる、永遠に孤独な女の子。


だから殺し合いをして私達の愛を見せてやらないと駄目なのだ。


「お姉さま、皆を殺したんだね、そう、酷い事をするね」


「ああ、どいつもこいつも美味しそうだったからな、キョウはお腹を空かせていないだろうか?」


「………様付け、しないんだね」


「ああ、あの山小屋であの子の面倒を見ていたのは私だ……お前とは立場が違う、何だ、誰に対しても飄々としていたお前が完全に主従の関係に落ち着いたのか?」


「………黙って、様付けしなさいよ、お姉さま」


「キョウ」


「っっ、あのお方の一部にもなっていないっ!肉体を弄られただけの弱小エルフが生意気な事を言うなっ!」


「ほう、すっかり会話も出来無いレベルだ、お前、キョウに恋をしたな、あんなに恋愛に興味が無いと言っていたのに、私の事が好きだったのだろ?」


「エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様」


「尾が生えた私より随分とおもしろおかしくなっている、そうか、キョウに躾けられてそんな風になったのか」


「エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様」


「――――――――呼び捨ては出来ないか、哀れな」


「エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様」


「キョウ」


「エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様」


「この一言で事足りるのに」


「エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様、あん」


冷静で自由奔放だった妹は自分の体を締め付けるように腕を絡ませて倒錯的な笑みを浮かべる、一度も集落の現状について語らない、そんな事よりもキョウを感じて現実逃避をしている。


いや、キョウを想う妄想こそがこいつの真実なのか?冷たい風が頬を撫でる………火照った頬にこの風は気持ち良いだろう?すっかり狂ってしまった妹を見て思う、精神を弄られてはいないな。


そのまま改造されたのか、言葉で、愛で、触れ合いで、キョウも酷な事をする、普通に恋愛させてコレか、普通に恋をさせてコレか、そもそも普通とは何だ?エルフライダーにとっての普通とは何なのだ?


「エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様、ああああああ」


白目になりながら倒錯的な世界に足を踏み入れる妹に溜息を吐き出す、仕上げ過ぎだ、恋愛ってこんなものだったか?どれ程に夢中にさせてどれ程に蕩けさせればこうなるのか?


「そうか、殺し合おうか、お前は、可哀想だ、妹よ……恋をして、精神改造もされずに、化け物に成り下がった」


「エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様エルフライダー様、あ」


「なんだ?」


「だれだおまえ、エルフライダー様への祈りの最中に入って来るな」


電光、吹き飛ばされながら思う。


キョウ、コレに何を与えた?

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