第252話・『飼育係はエルフ、餌はエルフ』

廃墟となった集落を歩きながらキョウとの再会を夢見る、エルフは全て尾が捕食した、この栄養をキョウに捧げないと。


命令されたわけでも頼まれたわけでも無い、尾がそれを告げている、ここにいればキョウに会えると告げている、少し疲れたので尾で丸まって眠る。


一番栄養がありそうな長老を見付けられなかった、かつては崇拝し信仰し敬愛した存在も今では栄養価の高い餌だ、幼児の肉は柔らかく美味い、長生きしているから魔力もため込んでいる。


それをキョウに捧げられなかったのは辛い、あの山小屋で心配そうに自分を見詰めていたのを思い出す、小動物の瞳、保護欲を刺激して脳味噌を揺さぶる、あの子を愛するように作り変える。


しかしそれによって幸福を得た、キョウはお腹を空かせている、可哀想に、逆にこの集落で飢餓状態になっている者はいただろうか?いない、エルフは人間と交流をして裕福になった、狩りをせずとも腹は膨らむ。


それだけの幸せを味わったのだ、次はキョウの餌になって食われる番だ、エルフは餌でしか無い事を知った、今まで知らなかった自分はどれだけ愚かな生き物だったのだろうか?その事実を気付かせてくれたのはキョウだ。


「意外だな……同胞を殺しても何も思わなかった」


幼い時から一緒に過ごして来た仲間たちの断末魔の叫び、魔物に寄生されているやら随分な言葉を吐き掛けてくれたな、親友もいた、でも餌は餌だ、それにお前達の栄養が無いと飢える女の子はいるのだ。


お前達は飢えていないだろ?これからも肥えに肥えるのだろう?だったら良いじゃないか、お腹を空かせている一人っきりの女の為にここで犠牲になってくれ、とても優しくてとても愛らしい女の子なんだ。


そしてこの世界で一匹だけの生き物、エルフは良いじゃないか、人間より少ないと言ってもそこそこ数がいる、だから餌になってくれ、頼むから餌になってくれ、そう願いながら殺した、みんなこの尾の犠牲になった。


剥き出しの器官はグロテスクだ、男性器を連想させるしミミズのように脈動している、だけどこれでエルフを回収出来た、エルフの栄養素を貯えて丸まると太っている、美しいエルフがコレに全て捕食されたかと思うと実に愉快だ。


「長老も加えてやりたかったのに、酷いな、逃げてしまう何て……餌として価値がありそうだったのになあ、あの幼い体はキョウが好みそうだ」


逃げてしまうとはな、この触手の中にエルフがギチギチになって収納されている、物理法則も何も関係無い、エルフライダーの力は万物を歪め真理をねじ伏せる、何て素晴らしい能力なんだ、その恩恵を授かれた事に感謝する。


どいつもこいつもエルフとして勇敢に戦おうとしたな、仲間を庇い集落を傷付けないように立ち振る舞い私を助けようとする、寄生されている?尾を切断した事に成功した瞬間に新たな尾に捕食された親友を見て笑った、これは生えるよ。


この私の中に既にそのように埋め込まれている、尾を切断しても無駄だ、奥底まで同化したキョウの細胞が私の体に働きかけて尾を何度でも再生させる、私はこれから先の人生でキョウを失う事は無いのだ、何て素晴らしいのだ!


「キョウ、早くおいで、尻尾にパンパンに餌を貯えたぞ、お腹が減っているだろう?可哀想に」


泣いてはいないだろうか?あの子はすぐに我儘を口にしてすぐに泣く、見た目は美しい少女なのに中身は幼女のようなものだ、知性の欠片も感じさせない動きをしたと思えば見ているこちらがハッとするような表情を見せる。


あの狭い山小屋はあの子にとっては苦痛だっただろう、今更になって後悔する、だから今度はもっと素敵な小屋を建てよう、いやいや、豪邸を建てても良い、この集落の跡地にでも建ててしまえば良いのだ、エルフの断末魔が染み込んだ土地はお気に召すだろう。


そして丸まって眠るキョウを見るのだ、子猫のような愛らしい寝相…………胸がときめく、あの姿を知っているのは私だけだ、あの山小屋でキョウを飼育した私だけだ、キョウの飼育に関して私より優れた者など存在しないのだ、その証拠にこの尾を与えられた。


この尾が私とキョウを結びつける運命の赤い糸なのだ。


「キョウ、お腹を空かせているだろ?早く食べさせたい」


「お姉さま」


慣れ親しんだ声。


「ああ、お前か………長老以外にも良い餌があったのを忘れていた」


「ええ、慧十十は良い餌だったみたい、エルフライダー様に選ばれて一部になったもの」


「な、に」


振り向くと微笑む妹の姿、蔑むような笑み。


ああ、こいつを殺さないと私を愛してはくれないんだなキョウ。


「実にわかりやすい」


「はい、お姉さま」

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