第249話・『この人の餌である幸せを噛み締めて耳を噛まれる丸型に』
お姉さまには長老、長老にはお姉さま、誰の一番でも無い慧十十(えとと)は誰かの一番になりたくて必死に抵抗した。
しかし一番に愛される事は無い、集落を出て行きたかった理由も単純だ、愛情を求めていた、外の世界なら自分を一番にしてくれる誰かがいると思っていた。
だけど今はエルフライダー様に愛して貰っている、その証拠に三日三晩、心と体を捧げた、気障ったらしいセリフもこのお方が囁けば真実に変わる………好き、愛してる、俺を愛して。
エルフである事が恥ずかしくなるほどにこのお方は美しい、神に愛されたエルフをさらに支配する生き物、エルフの美貌を遥かに凌ぐ美貌でエルフを巣に引きずり込んでゆっくりと食い漁る。
しかしそれは仕方の無い事だ………エルフライダー様は飢えている、お腹が空いている、だからエルフを罠に嵌めて食い漁る、今もうこうやって慧十十が食べられている、だけどそれは許される行為、許すべき行為。
エルフが森の木の実を食するのと同じだ、エルフライダー様はエルフでしかお腹を膨らませる事が出来無い、生き物としてそうなのだから仕方が無い、誰も責める事は出来無い、舌を絡ませると彼女は薄く微笑む。
長い睫毛だ、そのようなどうでも良い感想を心の中で呟く、すっかり慧十十はエルフライダー様に夢中だ、このお方はこの世界で一人っきりのエルフライダー、同じ種族はいない、一人っきりでこの世界でさ迷っている。
そのお方の慰めになればと体を絡ませる……お姉さまも長老も慧十十を見てくれなかった、しかしエルフライダー様は慧十十をしっかりと見てくれる、慧十十の下手くそな愛撫でも息を殺しながら快楽に身を捩じらせてくれる。
こんな美しい少女が世界に存在して良いのだろうか、日にちが変わろうが夢中である事は変わらない、いやいやいや、より夢中になってしまう、泥塗れになりながら絡み合う、汗なのか泥水なのか何なのか、思考は薄れる、快楽は高まる。
「おれだけをみて、ほかのふたりはもういらない」
エルフライダー様は独占欲の塊だ、何度も何度もお姉さまより俺は好き?長老より俺が好き?と不安そうに問い掛ける、最初はそれに答えられなかった、その時点では二人の方が好きだったから……そう自覚していたから、だけどそれもやがて変わる。
何時の間にか自分の口からエルフライダー様の方が好きと口にするようになった、それを囁くとエルフライダー様は美しい笑顔で『くふふ』と恥じらうように笑う、背景に薔薇が見える、天から光が降り注ぐ、泥塗れになろうが彼女の美しさは何も変わらない。
慧十十を誘惑して慧十十を夢中にさせて慧十十に恋させる、ああ、これが恋かと自覚するのは遅かった、恋、お姉さまに感じていたものよりもっと激しくもっと濃くもっと切ない、この人の為になら何でも出来る、この人が笑ってくれるなら一切合切を捧げよう。
「おれだけをみて、ほかのふたりはもういらない」
このお方より美しく無いお姉さまと長老は慧十十を見てくれない、だけど全てに勝る美貌を誇るエルフライダー様は慧十十だけを見てくれる、そして何よりこのお方の心は前者の二人より綺麗だ、透き通っている、純粋だ、純粋にエルフを食べる生き物なのだ。
なんて無垢なお方なのだろうか、人間やエルフの持つ精神の汚い部分を全く持たない、純粋な捕食者、どうしてエルフが抵抗するのかそれすら理解出来無い、可哀想な生き物、せめて同族がいればそのお心も休まるだろうに、だからエルフは捧げられるべきだ。
数だけいるのだ、エルフライダー様は一人なのだ、数だけいるエルフがその命を捧げてそのお心を救ってあげないと駄目なのだ……甘えるように体を擦り付けるエルフライダー様に胸がキュンキュンする、自分が護ろうとした集落は所詮は餌場にしか過ぎなかった。
「おれのこと、すきだろ、おまえ、しし」
「は、い……す、好きです」
「んー、嬉しいよぉ、俺の為にエルフを殺せる?」
「える、ふは、殺せます、殺して見せます、だって、エルフライダー様の餌だもの」
「耳を丸くしても怒らない?」
「は、い………誇らしい、です」
「くふふふふ、かーいーの」
「エルフライダー様の方は可愛らしい、です、あ」
「は、はずかしいな」
恥じらって顔を背けるエルフライダー様、性的な行為に手慣れているようでちょっとした言葉に恥じらいを感じてこのようなお姿を見せてくれる、キュンキュン、苦しい、見ていると切なさで死んでしまいそうになる。
エルフはやはり餌でしか無かったのだ、そしてその餌の中から慧十十は選ばれた、選んでくれた、誇らしい気持ちになる、この人の為なら何でも捧げよう、そこに躊躇いは無い、そこに迷いはない、何も心配いらない。
「ほかのふたりはいらないよなぁ、んふふ、自分の口で言って」
「あぁ」
「言え」
「お姉さまも長老も集落の皆もいらないですぅ」
「ふふ、そこまで言えと言って無いけどさ、良い子だ……じゃあ、その想いの証拠として……お姉さまを殺してくれる?」
「おねえさまを………お姉さまを」
「殺して」
「殺す」
エルフライダー様の言葉はあまりにシンプルで。
胸の隙間にすとんと入り込んだ。
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