第237話・『キョロちゃんはまだ赤ちゃんなのです、だから邪悪だけど可愛い』

グロリアが帰って来る、なので仕舞う、仕舞っちゃう、片付けちゃう。


どうも眠い、ねむねむだ、一部を全て収容すると広い部屋に一人ぼっちになる、ボロいのに無駄に広い部屋。


ちゃんと包帯を巻いてくれたので嬉しい、妖精の感知を使ってグロリアの位置を確認、あと二時間って感じかぁ。


微睡壬のアドバイスは的確で正しいと思える、この俺をエルフ如きが利用する?餌であるエルフがエルフを主食とする俺を利用するだと?


その長老とやらなぁ、ふひ、顔を手で押さえながら少し笑う、だけど笑い声は徐々に大きくなる、止められない、止めようともしない、宿泊客は俺達だけだ。



奇声ぐらい好きに出させてね?ジジッ、体を折り曲げて自分が切り替わりそうな事実に狼狽える、キョウになる?そうじゃない、もっと弱い、ああ、キョロか。


グロリアの細胞を取り込んだ事と俺のグロリアへの憧れが融合して誕生した素敵な新種、しかし俺自身として自由に切り替わるほどの権限は無い、力で抑え込む、怒っている?


キョウもキクタも好きにしろと言っている、あれだけ怖がっていたのに、あ、それは俺かあ?あの二人が見守ってくれている状況なら支配率を書き換えられる事も無い、そもそも俺の方が強い!


そりゃ当然か、俺は俺だものな、キョロも結局は俺でしか無い、だから俺が怖がる事も無い、キョウとキクタが見守ってくれているのだから怖がる心配なんて何処にも無いのだ、そもそもどうして怒っている?


鏡の前に立って意識を集中する、お風呂上がりなので何だか眩しい、お肌もキラキラっ、透明な肌は産毛も見えない程に繊細で人間のものとは思えない、シスターって人間では無いのかな?疑問、疑問なんだぜ。


『おや、今回は表に出してくれるのですね、嬉しいですよ』


「なぁに?切り替わりたいんだろうけどさせないよ、グロリアが帰ってくるんだもん」


『貴方のグロリアは目の前にいるじゃないですか、貴方の中に』


「うるさいな、奥底に閉じ込めるぞ」


『ふふ、先日まで監禁されてたのはキョウさんの方では無いですか、エルフに飼われているキョウさんは情けなくて疎ましくて滑稽でしたよ』


「うるさいよ、二度も言わせ無いで」


『おやおや、嫌われちゃいましたか?でもキョウさんは身内に甘いですから私を見捨てる事をしませんよね?怖いお姉さまから私を護ってくれていますし』


「キョウが消そうとしてるの知ってるんだ、大人しくしとけ、今も見られてる」


魔力による幻視によって鏡の中の自分の姿が僅かに変化する、キョウと俺は全く同じなのにこいつは精神の形状がやや違う、癖っ毛はそのままだが細氷(さいひょう)のように月の光を受けて強い銀色の光を放っている……艶やかさもあって氷晶(ひょうしょう)のように光を反射させて屈折させている。


とても綺麗で幻想的な髪の色、俺のように金糸が混ざっていない純粋な銀髪、まるでグロリアやクロリアのようだ、瞳の色は右は黒色、何となく慣れ親しんだ感じがある、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている。


少しだけ体を譲る、気紛れだ。


「きょう、さん」


『ほら、お前の体だぞ、っても俺とキョウとお前だけどな』


「どう、して、私に体を与えたら何をするかわからないのでしょう?」


『だけどずっと欲していたろうが、ふふ、どぉ?』


「本当におバカな人、このまま体を奪って逃げても良いのですよ?本当に……どうして、甘過ぎる」


ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながら彼女はもう片方の手で腰の辺りを弄る、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、だけどニヤニヤと吊りあがった唇の端が意地の悪さを含んでいる。


俺のようでいて俺で無く、キョウのようでいてキョウでは無い、右手の穴が生んだ少女、あの空洞がこの少女を生み出した……グロリアの血と憧れが俺の中で混ざり合ってキョウと同じような俺を生み出した、グロリアに捨てられたく無いから俺を捨て無いグロリアを生み出した。


捨てれないグロリアを。


「はぁ、良いです、今は止めときます」


『そうか、良い子だ』


「子供扱いしないで下さい、そもそも、先程の一部との会話を聞いていて呆れていたのです」


見た目が美少女なだけに僅かに漏れ出す精神の醜悪さが目立つ、見た目は俺とグロリアを掛け合わせたような姿をしている………純粋な銀髪である事と底意地の悪い笑み、出会った頃のグロリアを彷彿とさせる佇まい、腕を組みながら内にいる俺を見下している。


頼りになるぜ、俺から俺を奪ってみなさい、何時の日かさ。


『んー、だって俺を利用しているんだぜ、エルフがっ!エルフ如きが!あはぁ、だからみんなでころすのぉ、ころす?しないしない、ころさないころす』


「落ち着いて下さい、キョウさんはエルフが関わるとすぐに自我を失いますね、ああ、理性が無くなったそっちの姿が本来のものですか?」


『きょろがころして、おれなんだから、めいれい』


「聞いても良いですがその前に相手は未来を何通りかに収束して見れるのでしょう?だけど確率が高いモノを幾つか読み取れるだけで絶対では無い」


指を立ててキョロが説明する、だけどそんな事はどうでも良い、甘えて強請る、体を与えてやったのに酷い、キョウだったら何でも俺の言う事を聞いてくれるもん。


「だから長老とやらはキョウさんの一部になろうと必死なのですよ、一部になれなかった未来を観測してからずっと、だからキョウさんがあの子に与えた細胞を奪おうとしている」


『んん、おれのじゃましてるじゃんかぁ、ひどいよ、ねえ』


「そうですね、どれだけ望んでも叶わないモノがあるのに愚かです、だからキョウさん、ここでアドバイスです」


『ふんふん』


「長老を利用して警戒心が高そうな妹の方を懐柔しましょう、なぁに、私がちゃんと導いて上げます」


『どぉして、おれにやさしいの』


「そ、それはいきなり貴方が私に優しくしたからでしょうに!こっちの台詞ですっ!」


『わかんない、おればかだもん、かんたんにいって』


「ば、ばか!」


それはしってるのに、おかしいの、へんなきょろ。

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