第224話・『俺も私もお姫様』

やや腐れ落ちていた山小屋はしっかりと修繕され貢物で溢れている。


あのエルフの女剣士、毎日毎日欠かさずに何かを持って来る、見慣れないフルーツを齧りながら天井を見詰める、子供の玩具も多い、犬用の物まである。


あいつは俺を何だと思っているんだ?監禁されて二週間、時間の感覚がおかしくなる、人に飼われた事が無いので飼われて見たが中々に充実した暮らしだ。


ペットを溺愛し過ぎると舐められるぞ、くっくっくっ、喉を鳴らす、無論化け物ですから足の傷は既に回復している、だけどここでの暮らしは意外と楽しい、あの女が俺に夢中になる様が面白い。


あまりにも無垢であまりにも純粋、森のエルフは容易いな、飼い主としての自覚も出て来たようなのでそろそろ裏切るか、この住まいともお別れだな、ふふ、愛着が出て来たのに残念だ。


「キョウさん」


木の板をそのまま張り付けたような扉が開かれる、久しぶりに見たグロリアの姿は相変わらず綺麗で胸がときめく、目敏く俺の足の包帯を見付けて目を細める、冷気が周囲を漂う様な幻視。


大丈夫だよと言いながら立ち上がるが傷口から染み込んだ血の色は消せない、グロリアが俺の事で心配して嫉妬してくれている………それだけで十分なのに他に何を望む、久しぶりに立ち上がったのでよろめく。


流れるような動作でグロリアが俺を抱きとめる、頬がグロリアの胸に当たる、僅かな膨らみとグロリアの甘い匂い、これを体臭と言って良いのだろうか?こんなに香しくこんなにも鼻孔をくすぐる、グロリアだァ。


「グロリア、好きィ」


「はいはい、まったく、それで結果は?」


「俺に夢中だよ、率先して部下を護ったんだ、あいつがこの集落の一番の手練れだろう」


「人の手垢だらけのキョウさんを抱き締める事になるとは思いませんでした」


「大丈夫だよ、体は許していない、ふふっ、嫉妬するグロリアだぁ」


「………バカを言いなさい」


流れる動作でお姫様抱っこされる……お姫様はグロリアなのにおかしいの、重くない?と恐る恐る問い掛けると軽いぐらいですと呟く、その際にお尻を軽く揉まれて『ひゃん』と情けない声を上げてしまう。


埃臭い山小屋では気分が出ないよ、頬を膨らませるとクスクスと笑われる、グロリアの笑顔は俺だけが見れる、そしてここはその特等席、呆けたように見詰める、美少女だなぁ、それでいて所作が美しい、お姫様だ。


甘えるように顔を擦り付ける、俺のちっぱいはグロリアが執拗に揉むせいで少し成長したけどグロリアのちっぱいは俺が何度も頑張って揉んでいるのに成長しない、遺伝子的にほぼ同じはずなのに人体の不思議だ。


「今ガッカリしませんでした?」


「してないよ」


「そうですか、キョウさんの胸はこんなにも立派になりましたもんね」


「いたたたたたたっ、お、おっぱい潰さないでっっ!」


「私のですよね、これ」


「そ、そうだからっ」


邪笑を浮かべたグロリア可愛い、すっかり脳内がグロリアに書き換えられてあのエルフとの記憶が薄れてゆく、俺の脳味噌の容量は小さいのだ、無駄な事を記憶しているのはそれこそ無駄なので消去する。


処女のエルフだなんて物でしか俺を釣れないんだから、山小屋に満たされたプレゼント達、それなりの値打ちのある装飾品もあるが俺が興味を示さなかったので粗雑に床に置かれている、グロリアが目敏くそれを見付ける。


「売りましょうね」


「一応さ、俺がプレゼントされたわけでしょ?そこはさ、聞いてよ」


「売りましょうね」


「ああ、ダメなのね」


能面のような表情を貼り付けてグロリアが笑う、グロリアに似合うかなと思っていたのだけど良かった、他の女にプレゼントされた物をグロリアに渡した日にはどのように怒り狂うか想像も出来無い、俺って少し抜けている所があるんだよな。


値踏みするような視線が怖くて何も言えない、だから顔を寄せてご機嫌を窺う、山小屋を出てそのまま歩き出すグロリア、埋め込んだ芽があいつを狂わせる、それに乗じて集落へと乗り込もう、だけどおかしな事を言っていたな、俺が長老に何かをした?


何もしてねーぜ。


「どうしたんですか、妙に甘えますね」


「ダメなの?」


「…………いいえ、少し照れます」


頬が赤い、それを見て俺も赤面する、久しぶりのグロリアの初心な反応に俺も照れてしまう。


だからこう伝える。


「今度は俺がグロリアを抱っこしたいな」


「そ、それは名案ですねっ!」


俺の胸に甘えても良いよ?

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