第221話・『汚染済みロリエルフ長老はとてもとても』
大好きな長老が剣と魔法に優れた者を集めたのは昨晩の事だった、長老は見た目こそ幼いがエルフ族の中でも特に長命で千年以上もこの世を見守って来た。
本人曰くエルフの中でも突然変異らしい、子を成せぬのもソレが原因かもと自嘲していた、励ます言葉は虚しく響く、誰もその事には触れずに今回の集まりについて問い掛ける。
長老は夢見の力を持っている、未来に起こる現象を先読みして危機を回避する力、そう、予知出来る未来は必ず回避出来るのだ、だけれど今回ばかりはかなりの事情のようで顔面を蒼白にさせている。
この里の住人は長老以外は若いエルフしかいない、理由は不明だが今から十八年前に謎の奇病で一つ上の世代も二つ上の世代もさらにその上の世代も死んでしまった事実だけ、先人の知恵を失い労力も失った。
残った赤子と子供を一人で育て上げた長老には頭が下がる、里の人間は長老を慕い長老の為に戦うのだ、彼女の夢見の力のお陰で人間との交流も盛んになり集落も発展した、全てが彼女の言葉のままに従った結果だ。
長老の過去は誰も知らない……だけどエルフでありながら人間を差別せずに広い心で物事を見ている、それに感化されて自分も人間に対して理解を深めた、森も荒らす、海を濁す、空を汚す、しかし人間はそれだけの生き物では無い。
自分たちが生きる為に幸せになる為に自然を壊す、だけどそれは自然も同じだ、気紛れのようにエルフや人間を殺す、結局は自然も人間もエルフも同じだ、お互いの大切なモノを奪いやがてはやり返される、だけど人間のような生き方はエルフには出来無い。
エルフは森に寄り添い妖精の声を聞き日々の糧に感謝する、だけど人間を差別するだけなら誰でも出来る、長老のようにお互いを尊重しつつ文化を伝え合う事が大切だ、だけど今回のコレは人間では無いらしい。
「人間では無い、魔物ですか?」
仲間の一人が呟く、その声に多少の怯えが含まれているのは村長の様子が尋常では無い事がわかっているからだ……これもまた夢見の力で予知された事だが新たな魔王がこの世界に誕生したらしい……森で見掛けるようになった見慣れぬ魔物がソレか?
勇魔と魔王、どちらが魔物を統べるのかで状況は大きく変わる、しかしエルフは人間に味方する事も魔王に味方する事も無い、長命であるが故に時の移ろいに寛容なのだ、だけどそれは自分たちが害される事が無いのが絶対条件、今回は違う。
「魔物ではありません」
「ならばエルフですか?同族殺しは出来る事なら避けたいのですが土地も変われば掟も変わる、余所者のエルフなら敵として排除しましょう」
「エルフでもありません」
「亜人の一種ですか?エルフもそこに含まれますがドワーフであるなら敵対関係にあるし心も痛みません」
「亜人ではありません、勿論ドワーフでもありません」
「長老っ!言葉遊びが過ぎるのではっ!」
一人のエルフが長老に駆け寄ろうとする、しかしすぐさまに停止する、喉元で光るレイピアの光が怪しく輝いている、長老にそのような態度をするとはな、敵意を向ける、同胞だろうが容赦はしない、私は長老を護る為に生きている。
同じ釜の飯を食おうが幼き頃の記憶が同じだろうが長老に育てられた義理の妹だろうが関係無い、誰もが固唾を飲んで見守っている、長老の小さな掌が微かに動く、命令だ、レイピアを外してやると義理の妹は身震いしつつ私を睨む。
「お姉さまっ」
「黙れ、最初に無礼な態度をしたのは貴様だ、反省しろ」
「ど、どうして、説明をしてくれないのは長老の――――」
「くどい」
「あ」
「隅で大人しくしていろ、お話の途中だ、耳は生意気だから畳んでおけ」
エルフにとって耳を畳めという言葉は使い物にならないから黙ってろの意だ、妹は項垂れて部屋の隅へと移動する、憎いわけでも嫌っているわけでも無い、しかし私にとって長老は生き神に等しい存在、家族であるからこそ厳しく振舞う。
「して、その者は?」
何が微笑ましいの私達の様子を優しい表情で窺っていた仲間の一人が長老を促す、昔は泣き虫だった癖に今では率先して意見を言うようになった幼馴染、不機嫌気味に鼻を鳴らすと軽く手を振られる、軽い態度は好かん。
それが長老の前だと尚更だ。
「エルフライダー」
「は?えるふらいだー、エルフ、ライダー、何ですかソレは?」
「エルフを統べる者の名です、だけど私達は人形では無い、それが決められた運命だろうと抗う意思がある」
しかし微かな違和感がある、エルフライダー、その者はエルフを害する為に世界に誕生した悪意の塊らしい、長老の言葉が珍しく抽象的だ、それ以上に、いや、何よりも。
どうして恋をする乙女のように頬を染めてその者の名を語る?まるで貴方を語る私のように。
「エルフライダーはこの世から抹殺しなければなりません」
貴方を愛している、そんな風に聞こえる。
これは、何だ?
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