第219話・『襲来エルフライダー、逃げて』

エルフに襲われる事になるとは実に面白い、能力を行使せずに好きにやらせる、遠方から飛来する魔力を内包した矢は岩を穿ち木々を切り裂く。


グロリアと逸れてしまったが問題無いだろう、木々を蹴り上げながら高速で移動している、灰色狐の細胞が森の香りに反応して膨張している、しかし追手の気配は消えない。


肩に突き刺さった矢を抜く、先端には何か毒が塗られているらしく刺激臭がする、一瞬見えたソレは円弧を描く湾曲形に見えた、良い弓矢だ、腕も良い、素直に感心しながら先を急ぐ。


逃げ回っているだけではアレだけどどうも奇妙だ、妖精の感知能力でも気配が掴み難い、エルフと妖精は近しい種族、もしかしてそれが関係しているのか?舌打ちをする、見えない敵に狙われ続けるのもな。


それにしてもグロリアの様子が変だった、隠し事は得意なグロリアだがそんな場合では無かったようだ、冷や汗??大丈夫ですよと抱き締められている途中に敵の襲来、まったく、困ったモノだぜ。


「いててて」


『キョウ』


「キクタかっ!エルフつえーな、お前もエルフだろ?なにこれ」


『森に住むエルフは森に愛されているわ、気配も魔力も森が隠して包んでくれるのよ』


「へえ、どうすれば良い?」


『森に火を放てば簡単に打ち破れるわ』


「無理っ、こんなにも広くて大きい森を壊すだなんて嫌だぜ、他には?」


『矢が飛んで来た方向に一直線で急接近、固まって移動しているなら陣形の中に獲物が飛び込んで来れば嫌でも反応しちゃうでしょう、いけるの?』


「いける、見てろ」


『そこは男の子なんだから、まったく』


無垢の木から作られた矢をへし折りながら笑う、聞き耳を立てて状況を疑う、灰色狐の耳は良い耳だ、枯れ葉が落ちる音すら聞き分けられる………しかしこの距離ではな、魔力によって飛距離が出鱈目になっている。


しかし生かして捕まえたいのか急所は狙って来ない、遠視によってこちらの状況を全て把握しているのか?しかし魔法による遠視で攻撃まで出来るものか?あれは距離感が掴めない、もしかして素の視力だけでコレなのか?


鏃の形状を見ると純粋に破壊力と貫通性を求めていてとても開けた村の住人とは思えない、グロリアの情報が間違っていたとか?キクタが短く口笛を吹く、タイミングはばっちりだ、麒麟の能力を全開にして木々を蹴飛ばす。


鉄刀木(タガヤサン)の木は恐ろしい程に硬くて丈夫だ、流石に黒檀(こくたん)や紫檀(したん)に劣るモノのかなり丈夫な樹木だ、蹴飛ばす際に全力で挑める、しなやかに曲がって俺を弾き返すように森の中に投げ飛ばしてくれる。


「木選びは大事だぜ、エルフをぶん殴る為に」


『流石は植物大好き人間、ドラゴンライダーよりそっちで食べていけば良いのに』


「き、キクタ、言うなよ」


『そこも男の子ね、現実を見なきゃダメよ?』


「うるせぇ!バーカ!バーカ!バーカ!」


『あら、バカって言われても嬉しいだけよ?キョウがアタシに投げ掛けた言葉だもの』


「ば、ばか」


『ありがとう』


比較的に造林が簡単な鉄刀木、もしかしてエルフが植えたモノだろうか?一瞬で移り変わる景色を見詰めながら考える、周囲の環境からここに自生していたものとは考え難い、燃料としても優秀なので森の民にはありがたいだろう。


花も高く売れるし様々な意味で優秀な樹木なのだ、鮮黄色をした五弁花で香しい匂いがする、木材は硬くて恐ろしい程の耐久性がある、まるで鉄の刀のように丈夫で重い事から鉄刀木と呼ばれるようになった、俺も何時か世話をしてやりたいなァ。


腐り難く湿気に強い事から床柱に使われる事も多く加工にはかなりの時間を必要とする、硬くて丈夫なのは良いが加工するのも至難の業だ、何時か手を出して見たいのだが高級品だし人様が育てたモノで失敗するわけには行かない、植えたいぜ。


しかし類似樹種は大体加工性が抜群なのにどうしてこの子だけ……少し不憫に思う、そこも好きっ。


「っ」


「敵襲!」


「よぉ」


マントで身を包んだ集団のど真ん中に降り立つ、踵で地面を削るようにして急停止、その間は敵の攻撃を避ける事も出来ずに全身に矢が突き刺さる、刺され刺され、エルフライダーの血が地面に広がる。


女ばかりか、瞳ぐらいしか見えないけど全員女だと確信する、くせぇくせぇ、メスの匂いだ最高だ美味しそうだ食べちゃおうかそうだ美味しそうだ刺さるの好き刺さるの楽しい君たちの愛をもっと刺してね♪


んぁれぇ。


「あはぁ、おんにゃのこぉ」


「な、何だこいつは――――やはり長老の夢見は―――」


「めしゅ、めしゅ、おれのめしゅだぞ!なああああ」


吠えながら飛翔する、このめしゅ、おれのめしゅだじょ。


あは。

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