第218話・『グロリアに成り掛け』
エルフの集落へ続く森は魔物の巣窟らしい、らしいと言われてそうかーと軽い気持ちで乗り込んだら思いの外に魔物が多く少しビビった。
ファルシオンを振り回すと肉が弾けるように飛び散る、力任せに魔物を粉砕するのは楽しい、しかしどうして魔物って奴は人間を襲うのだろうか?
うーん、魔王によってそのように仕組まれているのはわかるけど些か一方的過ぎやしないか?……こんな風に自分より遥か格上の相手に考え無しに飛び込んで来てバカじゃねぇーの?
俺が魔物を生み出すならもう少し賢くするな……だってこれだと数が減る一方だもん、自分に見合った相手を見極める知恵が欲しいよな、犬の形をした獣は発達した四肢で大地を駆けて四方から襲って来る。
「犬好きにはキツイぜ」
「その割に楽しそうに剣を振るいますね」
「犬っぽい魔物を殺すのは嫌だけど砕けた頭が柘榴みたいで綺麗だろう?情緒を楽しむ心は失って無いぜ」
「情緒ですか、物は言いようですね」
戦闘は俺に任せてグロリアは敵の攻撃を軽いステップで避けている、戦うつもりが無い、全ての敵を俺に倒すように遠回しに要求している、怪我の調子が良く無いのかと疑ったがそれも心配無さそうだ。
貴族の屋敷にお呼ばれしたのは初めてでは無いがあの朝食の量には驚いた、余ったモノは使用人が外で販売するらしい、だったら最初からそんなに作らなければ良いのに、左右から襲って来る魔物を回転しつつファルシオンで叩き斬る。
だけどやっぱり切れ味は最悪で内臓と骨を絡めながら不気味なオブジェを刀身に構成する、別に良いけどな、そこにまた死肉が絡むモノだから敵を倒す度にさらにおぞましい変化を遂げる、串に刺した肉団子のようなファルシオン、ごめん。
「ふう、片付いたか」
「……その串刺し肉団子は何ですか?」
「このまま焼いて食おうぜ」
「え、遠慮しときます」
食いしん坊のグロリアにしては珍しい、何だか残念な気持ちになる、周囲の魔物は殺し尽したようなので肉塊を透明な触手で吸収する、ふふ、生きていたモノを殺したのだ、全てを栄養にしないよな、ズブズブズブ、蕩けるお肉。
伸びをして周囲を見回す、エルフの集落としては開けた場所と聞いていたが割と魔物が多いじゃん、しかし雑魚ばかりで楽しく無い、殺すのは楽しいけどそれとこれとは話が別だ、沢山殺したい、沢山自分が強い事を実感したい。
可愛い事を実感したい。
「あは」
「キョウさん、先を急ぎますよ?わ!?」
グロリアの手を引っ張る、勿論怪我をしていない方、俺は包帯を巻いた方の手、血の滲む感触、グロリアの肌にまで血が滲めば良い、そうすればグロリアの為に怪我をしたんだよって伝えられる。
生暖かい感触にグロリアの瞳が大きく開かれる、その表情が見たかった、大好きな人が自分の為に体を傷付けた事を実感して欲しい、そうすればグロリアは俺から逃げられないでしょう?何処にも逃がさないよ。
二人の傷が二人の穴が俺達を離さない、口が三日月の形に歪む、森の木々のざわめきが二人を祝福しているようだ。
「んふふ、逃がさないよ」
「あ」
「どうしたの?」
「い、いいえ………昔の私の笑い方に似ているなと、そう思っただけです」
「そお?グロリアと一緒なら嬉しいよ」
「人を欺いて支配する事を喜びとする歪んだ笑みです」
「グロリアと一緒なら何でも良いよ」
「――――――キョウさん」
どうして狼狽えるんだろう?グロリアとどんどん一緒になってるよ、どんどん同じになるよ、それがグロリアの望みでしょう?グロリアを模した神様を創造したいんでしょう?
顔も同じ、性別も同じ、笑い方も同じ、手の甲の穴も同じ、包帯も同じ、同じ同じ同じ同じ同じ同じ同じ同じ同じ同じ、それって素敵な事でしょう?
「それって素敵な事ですよね?」
「そう、ですね」
おれのしゃべりかたって、わたしのしゃべりかたって、どうでしたかね。
どうだったかな、あれ。
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