第216話・『エルフモドキを躾けてます、トカゲモドキは可愛い』

どうしてだろか、ずっと一人ぼっちだった、育ての親の教育は歪で狂信的なものだった、敵と教え込まれた人間は儚く健気な生き物だった。


二つを愛してしまった時に自分はその二つから逃げ出した、しかし今は違う、そんなものを二つ同時に愛するよりも自分自身を愛せば良い。


我が君が導き出してくれた答えは天啓にも似ている、何て素晴らしいのだろう、二つの愛が一つに集約されてストレスも無くなった、自分にストレスを与える愛なんて間違いだった。


「そうそう、だからこうして愛でてやっている」


「わ、我が君」


抱き締められた興味の赴くままに体のあちこちを触られる、我が君はエルフを捕食する生き物だからエルフの亜種であるマナナ族の体に興味津々だ、薄暗い部屋の中で吐息が漏れる。


爛々と輝く我が君の瞳は肉食獣のソレだ、正しい、エルフを捕食するのだから肉食獣か草食獣かで判断するなら肉食獣だろう、エルフ以外を捕食しても結局は肉だ、つまりは雑食性の生き物では無い。


幼い体に自信など無い、自分よりも女性的な我が君の裸体を見ていると感嘆の溜息が漏れる、ガラス細工のような肌には血管が透けて見える程だ、故郷の海の透明感を思わせるがこちらの方が不純物が無い。


「エルフと同じ尖がり耳」


「ホッホッ、さ、触られると、緊張するのォ」


少し大人ぶって諭すように語り掛けると我が君の顔が激しく歪む、それは相手を嬲る為に見せる危険な表情、耳を乱暴に掴まれて引っ張られる、神経が集中した部位を粗雑に扱われて流石に悲鳴を上げる。


生意気だと判断された、あああ、そうだ、常に我が君を想い我が君の意図を読み取らないと、間違ったのは自分の方だ、悲鳴を上げながらも辛うじて許しを請う、悲鳴なのか許しを請う為の言葉なのか判断し難い。


自分自身ですらそうなのだから我が君もそうだろう、だけど耳を嬲る事を止めて頬を指でぐりぐりとほじくる、この体の何処に興味を持ってくれても嬉しいと感じてしまう、こうやって誰かに体を触れられるなんて何時以来だろう?


「お前は年上だろうけど俺より偉く無いんだから気をつけろよ」


「わ、わかりました、学が無い藍帆傷を躾けて下さい」


「おう、ダメな奴だお前は、ダメなエルフモドキだ、こうやって耳を捻れば」


「ひゃう」


「すぐに鳴く、感度良好、ふふふふっ、切り落として丸耳にするか?」


「ひ、の、望むがままに、望むがままに――――こ、この耳も我が君のモノ」


「ションベン漏らしながらでも媚びるか、無駄に年齢を重ねたロリはコレだから面白い」


シーツに波が広がってゆく、仰っている言葉がわからずに何度も何度も同じ言葉を吐き出す、かつて海で自由に泳ぎ回っていた藍帆傷はもういない、今は狭い水槽の中で主のご機嫌を窺う哀れな金魚だ、しかも安物の金魚。


エルフ族特有の耳は主の指の動きに過敏に反応する、やはりエルフライダーだからエルフ的な部位を最も好むようだ、背中に跨れてこれを捻って頂ければこの身がさらに我が君に特化したものへと変貌する、情報が流れ込んでくる。


「ほれ、ほれ、ほれ」


「ひぃい」


「エルフの耳は良い耳だ、人間の耳は悪い耳だ、だから俺が命じたら大好きな人間もちゃんと殺すんだぞ」


「そ、それは、それはぁ」


「お願いだから言う事を聞いてよ、ねえ、俺の藍帆傷、グロリアにも見せたいんだ」


甘えるように囁かれると自分の信念があっさり変化するのがわかる、き、記憶が改善される、そうだ、魔王も人間も等しく餌なのだ、このお方は全ての生物を食べる権利をお持ちだ、お母様からそれを与えられている。


この大地を支配する神の直系、ここはその為の餌場、あ、なんだったかのゥ、ホッホッ、そう、命じられれば人間を殺す、あれは弱くて耳も丸いしな、良質な餌では無い、エルフを増やす為には刈り取らねば行かないと時もあるだろう。


それは仕方の無い事だ。


「勿論ですとも」


「子供でも老婆でも?」


「ホッホッ、おかしな事を…………どれも餌ではございませんか」


「魔王も?―――――海を統べる魔王であった怪異水も?」


はて、それと子供と老婆の違いが自分にはわからない、同じようなモノだ、同じような餌だ、エルフ以外は似たような餌。


程度の低い餌。


「ええ、我が君の望む様に」

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