閑話157・『キクタに気付かれずに無茶苦茶にした過去はあるけどナー』
一部であったが故にこの街に来れるのは知っている、アタシと同じように少し特殊な一部だがかつては確かに愛されていた。
キョウは心の何処かであいつを求めている、きっとそれは仕方の無い事だ、あいつと一緒にキョウを結果的には捨てて旅に出たのだ。
罪は一生消えない、償う為にアタシは長い年月を生きて自分を強化して来た、全てはキョウを幸せにする為だ……そしてあいつはずっとキョウに殺意を抱いて生きて来た、キョウを救う為だ。
二人にどのような会話があったのか定かでは無い、アタシが完全に忘れられたタイミングで一部になった?それともアタシが一部になる前に既にキョウの一部になっていた?問い掛ける事はしない。
湖畔の街は今日も静かだ、アタシとキョウに仮想世界とはいえここまで穏やかな日々が訪れるとは夢にも思わなかった、しかしキョウは神である母から勇魔である弟からその全てを狙われている、アタシが護ってあげる。
孵化さえしてしまえばこっちのものだ、既に強化に耐えられる体では無い、勇者の力を持ってしてもエルフライダーの強化にもう耐えられない、だったらあいつはどうやってあれだけの強さを手に入れたのだろうか?
キョウの頭を撫でながらそんな事を思う、二度目の邂逅は湖畔の街かと少し呆れてしまう、この世界では何時もアタシか女性体のキョウが近くにいる、キョウに手出しをする事は不可能のはずなのにご苦労な事だ。
「勝手に上がら無いでよ、貴方はキョウに忘れられて捨てられた癖に」
「ナー、キョウに言われるならそうするナー、でも旧友であるキクタに言われても命令では無いのナー」
「お前」
「睨むな睨むナー、眠り姫が殺意で起きても良いナー?ふふっ、音痴のお前では上手に子守唄を歌えないナー」
「ならお前が歌え、キョウはお前の歌が大好きだったろ」
「そ、それは断るナー、もう子犬のように好かれてみろナー、こ、殺せなくなるナー」
「本当は殺したくない癖に、キョウに頼まれた?アタシは知らないわよ」
「おや、初めて嫉妬したナー、恋人であったキョウが呵々蚊に内緒の頼み事をしていたのがそんなに気に食わないナー?」
湖畔の街の民家の一室で気持ち良そうに寝ているキョウ、眠るまで撫でていてと命令されたので言われるがままその癖ッ毛を撫でていた、ギィ、ドアの開く音は襲来を告げる音だった、懐かしき同胞はあの頃から何一つ変化していない。
その懐かしい姿に一瞬だけ気がゆるみそうになる、何て事は無い、親しかった友人であればこそ手の内はわかっている、レイよりもこいつの方がわかり難い、自分の感情に騙してでもキョウの為に行動する、本当は殺したく無いのでしょう?
この精神世界に訪れる事が出来るのはキョウの一部として完全に廃棄されていない証拠だ、権限もアタシに近いモノがあるし油断は出来無い、キョウはこいつの事を信用している、忘れているのに笑顔で迎え入れている、やめろ、黒いモノが顔を出す。
「その顔を見せろってんだよ、嫉妬に狂った醜い顔、本当にお前は良い顔するナー」
「何だと」
「キョウしか見ていない、キョウしか欲しく無い、なのにキョウを幸せにする為に勇者の責務を全うした、そうすれば地位も金もくれる約束だったからナー」
「そうよ、お前も、貴様も、そうだったでしょ?」
「でも結局だ、呵々蚊もキクタもいなくなってあの路地裏でキョウを護る者がいなくなった結果かあれナー」
部屋に入る事もせずに床に立ったまま探るように言葉を導き出す、粘着的で執拗な言葉責めは不快感を強める………まるでお前とアタシは同じモノだと呟いているようだ、キョウが眉を寄せて体を捩る。
シーツに波が広がってゆくのを呵々蚊は目を大きく見開いて見詰めている……お前だってそうだろう、お前だってこの娘が欲しくてアタシと行動を共にした、勇者の仲間として、英雄として、恋敵として。
性的な目でキョウを見ている事に殺意が溢れる、こいつは何時もコレだ、即物的過ぎる、俗物過ぎる、丸まるキョウにこの小さな体躯で覆うようにする、子供を護るような母のような心境、ひゅう、口笛を吹く呵々蚊。
「もっと見せてナー、キョウは相変わらず――――グチャグチャにしてやりたい可愛さだ」
「させるわけ無いでしょう、アタシに殺されたいの?」
「違う違う、呵々蚊は殺されたいんじゃ無くて、呵々蚊が殺したいのがキョウとキクタ」
「へえ、吠えるじゃ無い、キョウに殺して欲しいって頼まれただと?ふふっ、それが本当だとしても関係無い、お前は敵だ」
「キクタ」
「アタシとキョウの敵だ」
「っっ」
呵々蚊の幼い顔が歪むのを見てアタシは実感する……そうだ、そうやってアタシとキョウを羨ましがるのがお前の役割だったでしょう?永遠にアタシからキョウを奪えない、お前はキョウを愛していない、正しくはキョウだけを愛していない。
アタシとキョウを愛したお前はキョウだけを愛しているアタシに勝てない、二兎を追ってそのまま体を左右に引き千切られて死ね。
「呵々蚊はナー、キョウだけじゃなくキクタの事もちゃんと性的な目で見ているナー、だから嫉妬する必要は無いナー」
「尚更死ね」
「んー?だぁれ」
キョウの瞳が呵々蚊を―――まずい。
今のキョウは能力に溺れている、退行している。
「だぁれ?」
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