第212話・『エルフでサッカーしたら楽しかったです、喋るボールは最先端』

美味しかったぁ、エルフモドキかと思えば中々に上等なエルフじゃないか、精神も安定して肉体も充実している。


砂浜に転がしたエルフモドキは体を大きく痙攣させて何事かを呟いている、耳を澄ませて見るが波の音がソレを邪魔して何も聞き取れない。


ふん、しかし心の傷まで埋めれるとは思わなった、ん?俺の心の傷って何だっけ?思い出せないなあ、押し寄せる波が新たな一部を連れ去ろうとするので慌てて陸地へと上げる。


やばいやばい、あれ?こいつって、ざーざーざー、砂嵐が視界を奪う、耳の奥で何かが蠢く……ウジ虫のようなブクブクに膨れ上がった醜い虫が俺の記憶をムシャムシャと美味しく食べる。


先程の俺のように素晴らしい食いっぷりだ、あれれ、そう、そーだ、このビクンビクンしているのは俺の一部だぁ、んふふ、どうして外に放置したままなんだろ?恥ずかしい、ちゃんと体の中に入れないとさ。


「おら、起きろ」


「わ、我が君」


「こんな所で寝ていると死ぬぞ、いや、死ぬかどうかはわからんが寝ている姿が可愛くて無茶苦茶に蹂躙したくなる、そうしたらやっぱ死ぬな、あれれ」


「これ、が、我が君か、ホッホッ、何と哀れで愛らしい生き物よのォ」


「?なんで、なんでなんでっ」


「ぎえ」


蹴飛ばすとちゃんと悲鳴を上げるのに立てと心の中で命令しているのに立たない、なんでなんでなんで、そこに不安を感じて何度も蹴飛ばすけど起きてくれない、起きてよ、起きてって命令してるんだから起きてよ。


起きてって命令していないなら起きなくて良いけど起きてって命令してるのに起きないってどうしてなの?だけど途中から蹴飛ばして遊ぶ事が面白くなってそんな事も忘れてしまう、キャキャ、浜辺に子供の声が響き渡る。


体を折り曲げて大切な部位を腕で守っている藍帆傷(あおほきず)があまりに生意気で蹴り甲斐を感じてしまいます、だけど何だか足が短いような気がするなあ、蹴り難いなあ、あれれ、俺ってこれだっけ、これって俺だっけ?


「なんでなんで♪」


「ま、まだ、回線が上手に繋がっていないだけじゃ、ホッホッ、故に落ち着け、落ち着こう」


「落ち着こう?俺に命令してるのか?あれれれれれれ、お前は俺の一部なのに本体の俺に命令出来る立場なのか?」


「ひっ」


「お前は立たないし命令するし、なんなの!もぉ!」


「ぎぇ、や、やめて、お、お許しください」


「うん、許す、けど許さない」


頭を踏み付けてきゃきゃと笑う、こいつは面白い、だから許す、だから許さない、矛盾する二つを同時に選択する、許すと許さない、殺すと殺さない、両方選択して勝った方が正しい選択だっ、俺って賢いのだ。


だから殺すと殺さないを選択したら取り敢えず何もしないで見守ろう、その後にナイフで刺そう、矛盾した二つの選択を実行した後に結果として正しいモノを肯定すれば良い、死ななかったら殺さないの勝ち、死んだら殺すの勝ち。


ふふっ、こいつもほら、ちゃんと選んでる。


「も、もっと、ぁぁぁ、虐めて欲しい」


「止めてよりマシな言葉をやっと吐き出した、俺に暴力を振るわれるのは楽しいだろ?」


「わ、我が君が喜ぶと、う、う、嬉しい、寂しく無くなるのじゃ、最高の気分になるの、ぁぁあああああ、一人ぼっちじゃない、虐めてくれる虐めてくれる、虐めて遊んでくれる主がいてくれるぅ」


「んふ、可愛い」


藍染の淡く清らかな青色の髪、柔らかい緑みの青は甕覗(かめのぞき)と呼ばれる美しい色だ、この海の水の色に少し似ているソレを手で掴んで持ち上げる、全てを捧げるべき主君を前に藍帆傷は恍惚とした笑みを浮かべている。


孤独救済計画ー、よかったよかった、いや、こいつは最初から一部だ、もぉ、忘れやすいキョウ、覗色(のぞきいろ)とも呼ばれる色合いをした髪は俺の力でブチブチと千切れる、女性の髪は命に等しいモノ、癖ッ毛の俺より綺麗な髪なんて生意気だ、ハゲろ。


様々な布を何度も何度も藍甕(あいがめ)に浸けては取り出して浸けては取り出してこのような色合いになる、繰り返して繰り返して濃く濃く染めていく、その過程でこの髪の色と同じ色彩が発現する、甕覗は白い布を軽く浸した程度に染めたモノだ、後者の甕覗の由来も甕(かめ)を少し覗いただけという意味で名付けられた色名。


藍染は浸す時間や回数によって色の濃さが変化する、色合いが淡い順に藍白(あいじろ)、白殺し、浅葱、縹、、藍色、紺と名付けられる、ふふ、だけどこいつの髪の色が一番綺麗だな、そしてその髪を乱暴に扱っている事に性的な興奮を覚える。


「俺より綺麗な髪」


「そ、そのような事は、す、素晴らしい、藍帆傷の我が君は」


「違うぞ、俺の藍帆傷だ、俺はお前のものじゃない、偉そうに言うな」


「あぁぁ、そうです、そうなのです、申し訳ありません」


「謝れ、謝れ、謝って俺を気持ち良くさせろ」


「もうしわけ」


「うるさい」


「ぴぎっ」


もう一度頭を踏み付けると豚のような鳴き声で浜辺に顔を沈めた、うるせぇよ、ばーか。


さて、グロリアと合流するか。

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