第211話・『一人ぼっちから一人のキョウになる』
裏切りによって出来た傷は毒々しい色合いをして膿を吐き出している、目の前の存在はソレを必死に隠しながら一人ぼっちで生きて来た。
その傷口には見覚えがある、俺の心にもある同じ傷口、故に興奮する、傷口を舐め合う事が可能では無いのか??傷口を重ねて傷口を見え無くする事が可能では無いか?
愉悦に塗れる、小さな体躯は片腕で持ち上げるには十分な代物だ、抱き枕に丁度良いかもなと全く関係無い事を思う、吐瀉物が口の端と鼻の穴から流れ出ていて呼吸し難そうだ。
鼻に口を重ねて吸い込む、胃液、ツーンと来る味、度数の高いアルコールを口に含んだような刺激、それでも嫌悪感は無い、コレは俺だ、キョウだと自分で名乗ってしまった、そうなったらお終いなのだ。
「ぁぁ、し、にたく、無いのゥ」
「死なないぜ、俺の一部としてこれから生きて行くんだ、今までのお前の人生は全て失敗だったからな、ここでやり直しだ」
「やり、なおす?」
「人間に情が出て過去の過ちを悔いながらその死体を弄ぶお前は矛盾の塊だ、ふふ、少し取り込んだだけでかなり落ち着く」
エルフモドキはエルフだ、環境の違いによって能力の差異があるだけで何ら変わらない、それを実感しながら大人しくエルフと交わって子孫を残せばよかったのに無情な事を思う、その果てがこの矛盾した一人ぼっちの生き物だぜ?
力を入れると大きく息を吐き出す、口の中にあった吐瀉物が全て溢れて呼吸がさらに楽になっただろうと温かい気持ちになる、お前は窒息死だなんて生易しい死に方は出来無いぞ、俺になって永遠に俺として、んふふふふ、透明な触手を柔肌に差し込む。
「が、ぎ」
「入った入った、ガキのロリ肌は張りはあっても硬さは無いな、刺し込んじゃえば中身を弄るのに苦労はしない」
「や、やめ」
「やめないで?わかっているさ、俺になるまでこの作業を止めない、両親の解体シーンより自分の改造シーンの方が興奮するぞぉ」
「た、たす」
「助けて欲しい?この絶望の世界から助けて欲しい?安心しろ、俺がお前を助けてやる、俺だけがお前を助けてやる、だから安心して俺に委ねて死ねや、生まれ変われ」
突然暴れ出す藍帆傷を黙らせる為に触手を動かして内部を弄繰り回す、吐瀉はやがて吐血になり絶叫が周囲に響き渡る、鳴け鳴け泣け泣け死ね、生まれ変わるのには必要な事だ。
許しを請う言葉を聞きながら俺はとっくの昔にお前を許しているぜと苦笑する、許しているからこそお前と一つになりたい、許しているからこそお前の過去の傷を埋めてやりたい。
自分を育ててくれた魔王への愛情と必死に生きる人間に感じた想い、その二つの感情を全て俺へと向ける、どちらも愛情、その二つの対象が違うからこんなにも下らぬ事で悩む事になる。
育ててくれた魔王が施した教育がこいつを苦しめる、人間の社会で過ごした温かい日々がこいつを苦しめる、どちらも愛しい対象なのに魔王は人間を殺し人間は魔王を憎む、そしてその境目にいつの間にか立たされていた。
んふふふ、エルフの耳がピーンとなっていて可愛いよォ、両手で必死に俺の腕を振り解こうとしているが幼女の腕に見える俺の腕は実は聖獣の前足なのだァ、お前如きではどうしようも出来無いよ、どうしようも出来無くて弱いなぁ。
弱いからそんな下らない事で悩むんだ、魔王に愛情があるから魔王の教育を肯定してしまう、人間の事が好きになったから魔王の教育に疑問を感じてしまう、その魔王に対する愛情も人間に対する愛情も俺に向ければ良い、なあ、雑魚。
雑魚エルフ。
「あぁぁあああああああ、に、んげんころしたくないのォ」
「殺せ、俺の為に殺せ、大丈夫、人間を殺しても大丈夫、俺の為なら大丈夫」
「か、怪異水(かいすい)、あいして、だけどにんげんは」
「そんな魔王なんか忘れろ、死んだんだろ?死んだ雑魚の教えなんていらねぇ、お前は生きているんだから、人間も魔王もそうやってお前を悩ませて苦しめてるんだろ?」
「は、はぃい、つらかったのォ」
「そいつ等のせいで苦しいんだ、お前を裏切った二つの存在、魔王は人間を殺すようにお前を教育した、人間は醜い生き物だと思っていたら優しい生き物だった、二つとも裏切った、その裏切りがお前を一人にしている」
「あ」
大きく目を開く、俺の言葉は全て真実でこいつの脳味噌を読み取って俺の舌先が勝手に動いて言葉を紡いでいる。
触手は全身を蹂躙して俺の血液を流し込む、んふふふふふ、俺の血が入った方が美味しくなるぞォ、俺の餌を俺に近くして美味しく頂くのだァ、もう暴れる事はしない、崇拝するような視線、んふふふふふふ。
「さ、さみしいのゥ、ひとりはいやだ」
「だからさ、その二つに対する愛情を俺に置き換えてさ、忘れようぜ?そんなお前を悩ませるゴミ虫、だって俺はこんなにも強い、俺を愛せば生涯愛せるぞ??死んじゃう魔王や人間と違う」
「ぁぁぁ」
「だから俺を愛せよ、返事は?」
「は、い、わすれ、ます、だから、ひとりにしないで、さみしいのじゃぁ」
「一人にしないぜ?ふふふふふふ、ばーか」
「う、れしい、これで、ひよりぼっちはもう」
「ばーか」
ふふっ、美味しい、とてもとても美味しい。
これは良い一部なる、だって俺と同じ傷を持っているのだから。
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