閑話156・『他人と自分は愛を無くすモノでは無い』
キョウが口煩いのは俺の為を思っての事、最近は説教続きだけど甘えるように抱き付くと黙る。
そっぽを向きながら『は、反省したようだねェ』と都合の良い解釈をする、外に出れるようになった頃はエルフを誘い込んで支配していた悪女だったのにな。
それとも俺に対してだけこうなのかな?キクタに問い掛けたら自分自身に悪意を持って接する奴はいないでしょうにと呆れられた、何だかその答えが納得出来無くて不貞腐れた。
キョウは俺がキョウだから優しいのかなあ?……もし他人同士だったらどうなんだろうか?そんな事を考えたら急に怖くなった、グロリアに見捨てられるんじゃないかと悩んだ時期に良く似た衝動。
湖畔の街に降り立ったけどキョウに会うのが何となく怖くなって一人で散歩をしている、しかしすぐに見付かってしまう。
「キョウ、何処に行くの?」
「しょんべん」
「――――へえ、ここでしなよ」
こわっ、湖畔の街に来たのにキョウを避けるように逃げていたのがバレている、建物に背を預けながら腕組みをしているキョウの姿に狼狽えてしまう、何を言っても無駄なように思える。
冗談で切り抜けようとしたのが失敗だったかな?自分自身には感じないが冷徹になったキョウは何処かグロリアを彷彿とさせる、同じシスターで顔も同じだし、二人とも俺を扱うのが上手い。
細氷(さいひょう)のように日光を受けて強い銀色の光と金色の光を放っている髪を見詰めながら息を飲む、艶やかさもあって氷晶(ひょうしょう)のように光を反射させて屈折させている、目に眩しいぜ。
「キョウは今日も美人だな」
「ここでしなよ」
「うっ」
「私を無視して何処かに勝手に行っちゃうぐらいならここで用を足そうよ、ふふ、大丈夫、私とキョウは一心同体、恥ずかしい事は無いよね?」
「そ、それはそうだけどな」
「そうだけどな、じゃなくて、そうだけど、だよね?言い直して」
「そ、そうだけど」
キョウは嫉妬深く独占欲が凄まじい………しかし俺を意味も無く追い詰める事はしない、湖畔の街に訪れてキョウを無視していたのがよっぽどご立腹のようだ、何時もなら一番に合流して抱き締めるしな。
「す、凄い量だからキョウもビビるぜ」
「へえ、楽しみ」
「うぅううう、バーカ!バーカ!するわけねぇじゃん!もー、もーーーーっっ!」
「はぁ、そんな醜態晒すぐらいなら最初から事情を言いなよ、避けていたのには理由があるんでしょう?」
心底呆れたって顔のキョウだが俺を見捨てる事は決してない、そこに甘えている自分がいるのも自覚している。
「い、いや、キョウって俺だよな?」
「そうだよ、どした?」
砕けた口調で優しく問い掛けるキョウ、この不安を伝えるのは中々に難しい、自分でもこれがどのような感情なのかわからないが素直に思っている事を伝える。
前提からして『私とキョウは他人じゃないよォ』と論破されそうだがそんな事も無くキョウは真面目な顔で聞いてくれる、バカにするわけでも無く素直に聞いてくれる。
「私がキョウじゃなかったらか、寂しい考えだね、でも少しだけ大人になったかな?」
「おと、な」
「そーだよぉ、んふふ、やっとグロリアと同じ所に並べたようで嬉しいよ、失うものもあるけどねェ」
キョウが笑う、グロリアと何で並んだんだろう?何を失ったのだろう?俺が抽象的に伝えた事をさらにキョウが抽象的に応えて理解出来無い。
「男の子になったねェ、このこの」
「あ、う、うん」
「私がキョウじゃ無かったらグロリアのように出会って『君』に恋してたよ」
「―――キョウ」
「それだけの事」
キョウはそう言って優しく微笑んだ、その姿はとてもとても嬉しそうで幸せに満ちていて――――他人だろうが自分だろうがキョウが大好きなんだと自分の気持ちを理解した。
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