閑話155・『何だかんだで世間知らずの主人公とヒロイン』

雨に濡れた体を手早く拭いて暖炉で体を温める、グロリアはあまりにもびしょ濡れだったので先に風呂に入って貰った。


一緒に入りましょうよと誘われたがグロリアに体を弄ばれるのは少し疲れるし何よりグロリアの体を温める事が最優先だ、丁重にお断りしたら少し不機嫌になった。


くしゅん、市場で買えたモノは雑魚ばかりだが物は悪く無い、近所の坊主どもが昨日届けてくれたんだとオッサンは笑っていた、大荒れになるのを互いに予想して釣りの獲物を買い取ったらしい。


漁村のガキは頭が回るな、妙に感心しつつ布キレで体を拭く、料理と呼べる料理では無いが既に食事の準備は終えている、雑魚を全て味噌で鍋で煮たものだが根菜をたっぷり入れたので食い応えはあるだろう。


んーと間延びをする、雨は体力を奪う。


『キョウ、眠そうだけど大丈夫?』


「んー、大丈夫」


『グロリアはキョウの健気な一面を見たせいで性欲ムンムンだからそんな所で寝ていたら襲われるよ?』


「大丈夫じゃねぇ、え、健気?」


『仕事中に気遣って悪天候の中、買い出しに出掛けたんだよォ?もうグロリアはムンムンだよ』


「?そんなものなのか?」


確かにあの大荒れの雷雨を物ともせずにグロリアは俺を探していた、逆に迷惑を掛けたようで何処か心苦しい、ミノムシの様に布に包まれて俺は成程と頷く。


グロリアが喜んでくれたのなら良かったけど最終的に迎えに来て貰ったわけだし迷惑を掛けた、プラスマイナスでゼロって所かな?今度はちゃんと一人で帰ろう。


グロリアは長湯が好きだ、長湯して火照った顔のグロリアは妙な色気があって興奮するので今回も期待だな、ふんふん、だけど襲われるのは御免なのですぐに食事に案内しよう。


料理をする際に火を使ったので暖炉の前に行く前に既にある程度は温まっている、だけど眠気はどうしようも無い、キョウとお話していないとこのまま眠ってしまいそうだ。


『出会った頃はキョウに不謹慎不謹慎って言ってたのにすっかりグロリアの方が性の虜だねェ、自信が出るねっ!キョウっ!』


「そ、そーか……うへへ、まあ、俺は美少女だしィ」


キョウに褒められてついつい嬉しくなる、くねくねと体を捩じらせるとキョウもキャキャっと笑う、そーかそーかー、グロリアは俺に夢中なのかー、一緒にお風呂入っても良かったかなー。


まったく仕方無いなー、耐火煉瓦で構成された暖炉は中々の年代物だ、部屋に備え付けてくれているのがありがたい、グロリアの溢れ出る資金力に感謝、でも贅沢は時々だもんなァ。


炉内で石炭が赤々と光る、暫くして薪をポイポイ放り投げる、受付で貰わないと駄目なので何だか心苦しいが代金に含まれているので問題は無いだろう、くしゅん、でもやっぱりかなり冷えた。


『グロリアがそこまでムッツリとは思わなかったけどねェ』


「あんなもんじゃないのか?普通」


『いやいやいや、あれは異常だよォ、キョウも毒されて来てるよォ?体中キスマークだらけじゃん』


「あれは恥ずかしいな、あれも普通じゃないのか?」


『そりゃそうだよ』


へぇ、キョウは何でも知っているなぁと感心する、逆に自分の世間知らずを再確認する、あの村を出て色々なモノを見て経験したがその多くはグロリアに教わったものだ。


物覚えの悪い俺に根気良く丁寧に色々と教えてくれるグロリアは本当にありがたい存在だ、でもキョウの言う通りグロリアの教育にはやや偏りがあるらしい、グロリアも普通の生活を送って来たわけじゃないもんな。


グロリアは過去をあまり語らない、過去を忘れた俺と過去を語らないグロリア、どちらかのそれが相手にバレたとして今までのようにやって行けるのだろうか?開放型の燃焼暖炉なので小まめに面倒を見ながら少し不安になる。


もっとしっかりした暖炉なら大丈夫だけどこの部屋のモノではスギやマツの薪は使えない、火の粉が多く燃焼時の薪の爆ぜが強いからだ、広葉樹、サクラやケヤキやブナを用いれば安全なのだがここの薪はサクラを使っているようだ。


あんなにも綺麗な花を咲かせるのに今は火花を咲かせている。


『グロリアが出たらお風呂に入りなよ』


「うん、そーする」


『お風呂上がりのキョウの魅力でメロメロにしちゃいな』


「うえ!?」


『んふふ、冗談だよォ』


「が、がんばってみる、グロリアに迎えに来て貰ったお礼に!」


「じ、冗談だってっば!ちょ、き、キョウ、お風呂はまだグロリアが――――」


「グロリアーやっぱり一緒に入る!」


「きゃあ、き、キョウさん!?せめて隠してっ」


「何時も見てるじゃん」


「何時もは何時もですっ!」


叱られた、な、何でだろ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る