閑話153・『お食事キョウちゃん、お食事キョウ』

キョウの為に私だけの体が欲しい、そうすればキョウと結婚出来るしグロリアからキョウを取り戻す事が出来る。


そもそもキョウは私のモノなのに何時の間にかグロリアに奪われた、腹立たしい、苛立ち、舌打ちをする、そんな私の気持ちを無視するようにキョウがはしゃいでいる。


キャキャ、少し精神が安定していないキョウは笑いながら建物の壁を小さな掌で叩いている、その行為にどのような意味があるのかはわからない、興味の対象が私では無く壁ってどうなのォ?


「キョウ、おいで」


「あ、キョウ、頭が痛いんだ、だからこうやって叩いてる……ふふ」


「はいはい、おててが赤くなっちゃうからやめようね」


「やぁ」


「我儘を言う子は抱き締めちゃうぞォ」


手を伸ばすと乱暴に叩いて拒否される、ジンジンと痛みを訴える右手を振るいながらどうしたものかと溜息を吐き出す、グロリアのお陰で日常生活を送れている。


それは否定できない事実だよね、現実世界でこのような奇行に走ってもグロリアが優しく面倒を見てくれる、私の方がキョウをあやすのが上手なはずなのに、嫉妬する。


暴れるキョウを抱き締めて抱擁する、背中を何度も擦ってやると力も徐々に弱くなる、肩に噛みついているキョウは涙と鼻水を垂れ流しながら唸っている、既に人語では無い。


もっと遊びたいのにもっと壁を叩いて遊びたいのにどうして?気持ちは伝わる、幼くなったキョウに言葉は通じない、抱き締めて抱き締めて愛している事を伝える、敵意が無い事を伝える。


「いたたたたた、キョウ、痛いって」


「うぅぅう」


涙目になりながら犬歯をより深く深く肉に突き刺す、血が大量に溢れる、キョウの首からも血が溢れている、二人は一つだもんねェ、精神も肉体も二人で一つ、無理矢理振り解く事はせずに優しく問い掛ける。


顎の力が弱まるのを待つ、キョウな肉食動物だもんねェ、ふとくすぐったい感触に目を瞬かせる、傷口から溢れる血をペロペロと舐めている、子犬のような無垢さだが肉を噛み千切ろうと顎に力が入っている。


少し血を流し過ぎた、ぺたんと地面に座り込むとキョウも倒れるようにして追随する、湖畔の街は今日も静かだ、キョウとゆっくり現実世界の事を忘れて過ごしたいのにどうも精神が安定しない。


「ふぅううう」


威嚇するように目を爛々と輝かせるキョウ、首が痛い、肉を抉る歯の感触にオイオイと心の中で呟く、そこは急所だよ?再生をしているが血の噴出は止められない、この世界では全ての理が現実と同じだ。


出血多量で死ぬのはちょっとねェ、キョウも死んじゃうし、再生をするがその肉の気泡をキョウはハグハグと食べてしまう、動くものは何でも餌なのォ?しかし少し嬉しい、グロリアの血の味を覚えたキョウが私の味に溺れている。


「いたたた、んふふ、向こうではグロリアに血を貰いなァ、こっちでは私の血を飲もうねェ」


「ふぅううううううう」


「は、鼻息が凄いよォ」


「?」


「んふふ、血でお腹一杯にしちゃう?私は別に良いけどねェ、少し貧血気味かな?」


凶暴な半身を持つと大変だ、グロリアが血を与えてキョウの精神を安定させるように私も定期的に血を与えるしか無いねェ、そうすればエルフを食べるまでの期間を何とか過ごせるかもねェ、私とグロリアの血、どっちが美味しい?


涙しながら血を吸っているキョウはまるで赤ちゃんのようだ、色々と思考する能力を失って感情表現が単調になっている、促すように顎を動かすが出血が酷過ぎて意識が遠くなる、血はキョウへと吸収される、私は俺はキョウ。


大丈夫、結局一人のキョウの中で血が移動しているだけ、二人では無い、私は死にはしないよねェ。


「よ、よしよし」


「???」


「いたたたたたたっ」


「………!おれのもすうか?」


傷口に唾液が染み込む、口元を真っ赤にしたキョウが無邪気に呟く、首を差し出すようにして笑う、それってグロリアにはしてあげていないよね?


それって私だから?


「吸わないよ、凄く痛いからね」


「んー」


「私は大丈夫、女の子は痛みに強いんだゾ」


「がぶっ」


「ぎゃあ」


油断させといて酷いよキョウ。

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