閑話149・『キクタはキョウが喜ぶのなら何でもする、寝取られようが構わない、無限愛』
この世界に足を踏み入れるのはかなり勇気がいる、しかし厳戒態勢の中で隙を突くなら今しか無い。
赤ちゃんはベッドの上で丸まるようにして寝ている、思いの外に元気そうだ、スヤスヤと穏やかな寝息を聞いていると心が休まる。
かつて求めた家族はこの子に集約された、恨みもしないし憎みもしない、古(いにしえ)の魔王の邪精覇(じゃせいは)、母である彼女と我が子は良く似ている、同じ匂いがする。
家族だから当然かと苦笑する、すやすや、まさか最初の一部であるキクタが自分の味方をしてくれるとは思わなかった、女の子のキョウは酷く自分を敵視している、キクタが味方になってくれたのは心強い。
つまり二人は互いにキョウを優先する特別な権限を持った個体だが思想や考えが全く違う……キクタはキョウの望みを叶える為なら自らが犠牲になる事も構わないしキョウは他の一部に心変わりしても笑顔で受け入れる。
キクタの愛は全てを超越している、それと違って女の子のキョウの愛情は独占欲と執着心で酷く濁っている、裏切られ続けた過去が生んだキョウ自身である彼女は誰も彼もを認めない、それこそ一部ですら単なる道具と切り捨てる。
故に道具に対してキョウが深い愛情を示せばそれをどうやって排除しようかと考える、キョウ、赤ちゃんは二人で一人なのに女の子の赤ちゃんに全ての行動を管理されている、それはとても可哀想だ、腹を痛めて産んだのは男の子の赤ちゃん。
愛情はあるが比べるものでも無い。
「ん、おかあさんだ、きょうは?いじめないの?」
「あの子はキクタに騙されてお仕事に励んでいるデス、熱は下がったようデスね」
「どうくつ!」
「それはシスターと行って下さいデス、ふふ、レクルタンも少し具現化するから心配無いデス」
「おかあさんのことで、いじめられた、ひどいんだよ、きょう」
舌足らずの声は何処までも幼く何処までも無垢だ、女の子の赤ちゃんを責めるわけでは無く腹が立ったから聞いて欲しい、必死にされた事を語る赤ちゃんは可愛い、おでこを撫でてやると汗でべっとりだ。
慌てて拭ってやる、現実世界と湖畔の街はリンクしている、つまり外の状況がこの世界の現状だ、熱は下がったようだがまだ体調は万全とは言えないデス、これだけ真っ直ぐに愛情を向けてくれるのはありがたい、求められている。
それが赤ちゃんの半身から恨まれる事になろうと関係無い、キクタはそれを否定する、あの二人がキョウの中で最も権限のある個体、それでいて少しずつ派閥が出来上がりつつあるデス、結局は赤ちゃんの一部なのデスが。
キクタにかなりの権限を与えている事が女の子の赤ちゃんは気に食わないようデスね、このように強制的に肉の海に沈められたレクルタンも赤ちゃんに再会する事が出来るのデス、それが気に食わないと?まあ、わかるデスよ。
「酷いのはレクルタンの方デス、無理矢理連れ帰ってごめんなさいデス」
「ひどくないよ、たおれたもん、おれ」
「でも必死に泣いておねだりした事を無視したデス、胸が痛いデス」
「えへへ、ざまあみろ」
「そうデス、だからご褒美で赤ちゃんのお世話が出来るのデス」
頭を撫でてやるとニコっと微笑む、この世界で女の子の赤ちゃんと二人っきりでいるのはこの子にとってどうなのだろうか?自分の都合の良いようにこの子を調教して洗脳する行い、多くの一部は黙認しているがレクルタンは認めない。
反抗的だと思われるだろうか?豪華絢爛な着飾る必要も無い程に整った容姿にも疲労が見える、エルフを食べさないと駄目デスね、現在一番優先される事、ここに監禁して置く事がこの子にとって決して良い事では無い、母親としてそう思うデス。
髪を撫でると癖ッ毛が指先に触れてくすぐったいデス、金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいているデス、我が子ながら美少女、将来の旦那さんは大変デスね。
誰も彼もを魅了するデスよ。
「きょうにひどいことされてない?」
「ええ、キクタが間に立ってくれているデスよ、一人では危なかったデス、こうやって触れる事が二度と出来無くなる所でした」
「さすがおれのきくた」
「ええ、赤ちゃんのキクタは優秀デス」
「んふふ、あげなーい」
「いらないデス、貴方にこうして触れる事が出来ればお母さんは何もいらないデスよ」
視線が絡み合う、瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている。
二色の瞳は二つの星、二人の赤ちゃんを連想させるデス。
「おかあさん、おかあさん、からだがあついからなぐさめて」
「ええ、望むがままに、言われるがままに」
キクタにお礼を言わないと駄目なのが少しあれデスが。
服を脱ぎながら自分のプライドを何処まで下げれるのか自問自答した。
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