閑話148・『全部欲しい、全部、全部、全部寄越せ』

処理落ちしたキョウは肉体の自由を失った、幾ら何でも調子に乗り過ぎた、エルフを補給しないと本格的に危険な状態だ、麒麟は関係性でいえば私達の親戚になる、馴染む事は馴染むが神の力を制御するにはまだ早い。


だからキョウは退行した、下手に知能を持って自由に暴れられるより幾らかはマシだ、グロリアに血を与えられながらベッドに眠るキョウは眠り姫であり吸血鬼だ、精神は湖畔の街に閉じ込めて覚醒の時を待つ、色々と立て込んでいる。


あの魔物を取り込んだ事で限界を迎えた、かなり優秀な魔物だ、情報も多い、本人は自覚していないが魔王の近縁である可能性も高い、何でもかんでも拾い食いするからだよォ、グロリアが本腰を入れた事で安心する、彼女の事は好きでは無い。


だけどキョウの為に行動してくれる事は確かだ、奇妙な信頼関係、キョウがあまりにグロリアを愛しているせいで私にも影響があるのかなァ、んふふ………あり得ないね、泥棒猫を好きになる事なんて無いよォ。


「うぅ、かえるゥ」


「だーめ、帰らせないよォ、本当に目に入ったモノは何でも食べちゃうんだから、せめて私が用意したモノを食べて欲しいよォ」


「あ、キョウだ」


「こらこら、歩けないのにベッドから起き上がろうとしない」


「…………キョウだ、どうくつは?おかあさんは?」


寝かし付けておいたのにすぐに何処かに行こうとする、湖畔の街は安全だ、私とキョウの精神で構築された世界だがこのような状況のキョウが出歩くにしてはだだっ広い、そもそも歩けないしねェ、顔が火照っていて目が虚ろだ。


どうしても洞窟に出かけたいらしい、レクルタンには感謝だ、あの状態のキョウの命令を跳ね除ける胆力、他の一部ならすぐに洗脳状態に突入して甘やかしていただろう、どのような脅威があるかわからない場所にこんな状態で飛び込むだ何て死地に向かう様なものだ。


グロリアが同行してくれるのはありがたいよねェ、これだけ多くの一部を抱えてもまともに戦ったらきっと負ける、シスターの異端児、キョウの敵になる場合も考えて備えているのにレクルタンの姿を見られたのはかなり痛い、キョウがどのような一部を好むかバレてしまう。


そこから多くの対策も練られるだろう、キョウには悪いけど私はキョウしか信じていない、他人はどいつもこいつもキョウと私も利用する、お母様もレイもキクタも結局は他人だ、それが血縁であろうが心が通じ合った過去があろうが何も変わらない。


キョウが信じれるのは私だけ、優しく問い掛ける。


「洞窟はまた今度ねェ」


「おかあさんは?おかあさんだして」


「れ、レクルタンは一部の取り込み処理に回ってるから少し待ってね、私がいるから大丈夫でしょう?」


「おかあさん、おかあさんだして、きょう」


舌足らずの声で急かされる事よりも私が目の前にいながらレクルタン如きを要望するキョウにショックを受ける、けほけほっと咳き込みながら甘えるようにレクルタンを求める、嫉妬で気が狂いそうだ。


事実、レクルタンは一部の取り込み作業にその神経の全てを使っている、魔王軍の幹部勢は強靭な細胞と精神を保有しているので実に便利だ、新しく取り込んだ一部も魔物だし相性が良い、つまり私は嘘を言っていない。


なのにこの罪悪感、レクルタンは注視しなければ、キョウに付け入るのが上手い、油断できないよねェ。


「きょう、こほっ、おかあさん、どうくついく」


「き、キョウ……体調が悪いんだから無理しちゃダメだよォ、ほ、ほら、私が手を繋いであげる」


「きょうじゃなくて、おかあさん」


「―――――――ダメって言ってるでしょ、我儘言わないで」


冷たい口調になってしまうのも愛のせいだ、愛情は私を容易に狂わせるし嫉妬は私を容易に醜い生き物に変える、見下すように睨む、だけど熱のせいで頭が回っていないのかキョウの反応は薄い、呟くように何度もお母さんと呟く。


暫くレクルタンを具現化するのは私の権限で止めよう、どうして私があんな下位な一部に嫉妬しなければいけないのか?馬鹿馬鹿しい、でも胸の内でドロドロとしたものが溢れてくる、んふふふふ、駄目だァ、レクルタンを消したいよォ。


こうやって依存する事からキョウの特別は生まれる、アクもそうだったよねェ、二度目は無いよォ、あああ、でも駄目だァ、どうして私がいるのに私を見てくれないのォ、洞窟も私が一緒に行ってあげるよォ、んふふふ。


「おかあさんは?」


「キョウの前にいるのは私だけェ、残念だったね」


「――――――――――」


「見て、キョウと同じ顔、キョウと同じ体、キョウと同じ心、キョウと同じ魂、キョウだよ、キョウの目の前にいる私はキョウ」


「お、れ」


「キョウと私で完結しているのに他の一部の話なんかしないでよォ、一生会えなくするよ?それでもいいの?」


「う、ぁ」


ポロポロと涙を流して首を振るキョウ、少し意地悪が過ぎたかな?しかし言葉に嘘は無い、私を蔑ろにしたら酷いよ?


涙をキスで拭ってやりながら何度も何度も囁く、幼い精神に毒を流し込む、幼い精神に優位性を叩き込む、キョウは黙って私とイチャイチャしてれば良いんだよ?


「おか、さん」


「私がお母さんだよ、キョウの欲するモノは全部私が奪う」


「うーぁ」


「残念だね」


そう、レクルタンと一度話をしないとねェ、泥棒猫。

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