第203話・『ポンコツグロリアの最終手段、刀身』

海蝕洞(かいしょくどう)の一種だろうが地面が無く水で満たされている、グロリアが魔法で水面に浮かぶようにしてくれた、便利そうなので教えてと強請ったら教えてくれた!


あらゆる才能を取り込んだので魔法を覚えるのも簡単だ、魔力のコントロールは割と苦手だが一部の皆が補佐してくれる、夜泣きしている時間帯では無くまだ太陽のある内に強行突破!


グロリアの怪我を再度確認しながら俺が護るんだと強く意識する、そんな俺の視線を感じてかグロリアがクスクスと笑う、上品な笑い声、グロリアの所作はどれも美しい、洗練されてて品がある。


洞窟の中は涼しくて暗い、水面の上を歩く行為に少し抵抗があるがグロリアがずんずん進むので俺も黙って付き添う、ぐ、グロリアって怖いものが無いのかな?涼しげな横顔を見詰めながら思う。


六角柱状の柱状節理が異様に発達している、玄武岩中に形成されたソレが妙に幾何学的に見えて勇魔の魔物を思い出す、節理(せつり)は岩体に出来た規則性のある割れ目の両側にズレが無いモノの事を指す。


マグマが冷却固結する時や地殻変動の際に発生するのだが割れ目の両方にズレがある場合は断層と呼称する、手で触れる、ひんやりとして冷たい、どれだけの年月がこの洞窟を構築したのだろうか?


「柱状節理(ちゅうじょうせつり)ですね、ここまで見事なモノは珍しいです」


「へえ」


「岩体が柱状に構築された節理、六角柱状のモノが一般的でここもそうですね、五角柱状や四角柱状のモノもあるんですよ?」


「見てみたいな、グロリアと一緒に」


「そ、そうですね、それでは何時か一緒に」


柱状節理は高い温度を保った溶岩が冷える事で六角形の割れ目が構築されその過程で発生する、その溶岩の塊が冷える事で縮小して罅割れが広がってゆく、それが少しずつ内部を侵食して六角形の柱群を構築するのだ。


それがさらに長い年月を掛けて波浪に浸食される事でこのような特殊な形状の洞窟が構築される、水面を覗き込むと水の中の岩肌も同様のものだ、小魚が群れで泳いでいて楽しそうだ、あのサイズなら全部フライかツミレだな。


天然自然が生み出したアーチ状に曲がった天井がまるで人工物のような完成度で少し笑ってしまう。


「何だか誰かが作ったかのような洞窟だな、自然って凄いな」


「キョウさん?ゆっくり見学するのはエルフモドキを取り込んだ後にしましょう、貴方の体が第一優先です」


「俺はグロリアの体を第一優先してるぞ?怪我もしてるし」


「私の事なんて」


「そんな事を言うグロリアは嫌いだ」


「――――――――――」


「へへ、嘘だぜ、でも好きな女が傷付いて平気な男なんていねーぜ?グロリアの手、綺麗なのにさ」


「い、労わるか口説くかどちらかにしなさい」


ムキーっ、グロリアにしては子供っぽい怒り方についつい笑ってしまう、本心で言った言葉が相手に伝わるのは嬉しい、それが大好きな相手なら尚更だ、魔物の一匹も出て来たらこんなに照れ臭い空気にならないのになァ。


波の営みが生む不気味な音が鳴り響いているがあの泣き声では無い、ファルシオンがカタカタと小刻みに震えている、何時になったら魔剣になるんだろうか?それとももう魔剣なのかな?優しく撫でてやると震えが少し落ち着く。


「ファルシオンが震えている、早く異形の血を吸いたいって俺におねだりしてる、愛い奴め」


「最近は瘴気のようなモノも垂れ流しですし本当に魔剣って感じですねェ、おかしなモノに進化しなければ良いのですが」


「おかしなモノに進化してもこの子はグロリアが俺に初めてプレゼントしてくれた剣だ、大事にするのは変わらないぜ」


「もぉ!」


頭を叩かれる、イテェ、グロリアの乙女の叫びに少し狼狽える俺、ぷんぷん、擬音が見えるぐらいグロリアは怒っている、それ以上に恥ずかしそうだな、な、何なんだぜ?さっきから距離が掴めない。


このような奇観で構成された洞窟で何をやっているんだろう俺達、ぽこぽこぽこ、何度も頭を叩かれるけど癖ッ毛ふわふわの俺には通用しないぜ、寧ろ心地良いわ!


「こーゆーのが当たり前になってSMプレイにハマるんだろうな」


「もぉもぉ!」


「イタイイタイイタイ、剣の柄はやめてっ!?」


勇者の聖剣の代用品で人の頭を叩くなよっっ、お、恐ろしい女だぜ!顔を真っ赤にして照れているのは可愛いけど愛情表現が過激すぎる、ふふ、俺ぐらいしか付き合えないな、タンコブ痛いっ。


「照れても可愛いだけだから、怒っても可愛いだけだから、無駄な足掻きだぜ!」


「つ、柄でダメなら刀身で――――」


「落ち着けグロリア、話をしよう」


少しポンコツになったグロリアも可愛かった、しかし思った以上に深い洞窟だな。


待ってろよシーフード。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る