第202話・『その傷はグロリアの宝物、部下が見たら多分卒倒する』
グロリアの手の甲の傷を見詰める、丁寧に包帯で巻かれているが痛々しい、グロリアを傷付ける輩がいると思うだけで殺意が溢れるが本人は柔らかく否定する。
どうしてどうして、嘘はやめてよ、心の中で叫ぶが宥めるような物言いに何も言えなくなる、グロリアが怪我をした、グロリアが怪我をした、眩暈がしそうだ、どうにかなりそうだ。
魔法で治癒しないの?俺が錬金術でどうにかしようか?そのどれも拒否される、大切な傷ですからと微笑む、俺が寝ている間に何があったのだろうか?もしかして俺が傷つけてしまったのだろうか。
傷がまだ疼くらしく探索は明日にする事にした、時間はあるのだ、焦る事は無い、腕が使えないグロリアは椅子に座ってすやすやと寝ている、穏やかな寝顔だ、改めて見ると美少女だなと再確認、とんでもない美少女。
白磁の肌は透き通るように白く血管さえも透けて見える程だ、シミ一つ無く艶のある肌は生物のモノとは思えない、手で撫でてやると軽く笑う、どんな夢を見ているのだろうか?傷は痛く無いのかな、大丈夫かな。
「ん、ああ、少し寝てましたか」
「うん、疲れてるんだろ?俺の看病してくれてたし、俺に何があったんだ?」
「赤ちゃんに戻ってわんわん泣いてましたよ、夜泣きするキョウさんのお世話をするのはかなり苦労しました」
「嘘だろう、そんな高度なプレイを俺は望んでねぇぞ」
「………キョウさんの一部のレクルタンさんって人に物凄く甘えてましたよ、指を甘噛みしてました」
「ああ、会ったのか、ふーん、あいつは何時だって安定しているからな、外に出しといて良かったぜ」
レクルタン、お母さんと会ったのか、グロリアに自分の一部が出会ったのだと思うと何だか緊張する、どうしてだろう?灰色狐やユルラゥじゃなくて良かった、ぎゃぎゃー騒ぐ二人を想像したら寒気がする、問答無用で斬り捨てられそうだ。
それに比べてレクルタンはかなり常識的な一部だからな、グロリアを前にしても変な事はしていないだろう………後で呼び出してその時の状況を問い掛けても良いかもな、記憶を共有するよりも直接あいつの口から聞きたい、お気に入りなのだ。
波が寄せる音と奇怪な叫び声、この村ではそれが常識なんだよな?明日調べに行く事が決まったのにそわそわする、何時もなら一人で勝手に足を運ぶのだが俺の肉体の状況もわからないしグロリアも怪我をしている、焦るな、焦るな、グロリアの話だと海に住むエルフの親戚らしい。
エルフか、今の俺の危機的状況をこれで打破出来る、腕を軽く振ってみるが異常は見られない、体調は万全のように思えるがキョウがそれを否定している、ここの宿屋は飯も出ないし掃除も来ない、代金だけ渡していれば何時までも滞在出来る、気軽だけど二人とも病人だからな。
「可愛い人でしたね」
「え」
「ああ、レクルタンさんの事ですよ、どうしましたか?」
「い、いや、グロリアが俺の一部を褒めるだなんて思わなかったからさ、少し戸惑っただけだぜ」
「あんな幼い女の子の胸に甘えているキョウさんの方が戸惑いを覚えるのに十分ですが」
「勘弁してくれ、覚えて無いんだ」
「そうですか、もう少しお話がしたかったので今度また会わせて下さい」
「べ、別に良いけど…………はっ!?と、取ったらダメだぜ?お、俺のだからっ!」
「はいはい」
ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながらグロリアは優しく微笑む、素直に言えなかったけど同時にお母さんにグロリアが取られたような気がして嫉妬している、どうして素直に言えないんだろう??魚をくれた無垢な少年の笑顔が浮かぶ。
グロリアが俺を見る目はあの少年と同じだ、憧憬?好意?愛情?それを自覚するとどうもむず痒くなる、おいでおいでするグロリアに素直に従うと膝の上に抱っこされる、カーッ、顔が赤くなるのを感じる、だけどグロリアの手の甲を見るとそれが冷める。
胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、それに包まれながらじーっと怪我をした箇所を見詰めてる。
「まだ気になりますか?」
「だって教えてくれないし、教えてくれないし!」
「キョウさんの為に自分からした事ですよ、まだ少し痛みますが明日にはかなりマシになるでしょう、洞窟の探索はそれまで待って下さいね?」
「ま、待つけど、お、俺の為?」
「自分の彼女が自分の為に怪我をして、どう感じますか?」
問い掛けは何処までも優しく何処までも包まれるような感覚に全身が震える、あの誇り高いグロリアが俺の為に自分の体を傷付けた?どくんどくん、やっぱりあの少年を前にした時と違う、これはもっと激しくてもっとどうしようもないもの。
おへその辺りがキュンキュンする、グロリアが愛でるように優しくそこを撫でる。
「べ、別にぃ、お、俺は大人だからグロリアの体の方が心配だもん」
「ふふ、嘘つき」
嘘じゃ無いもん。
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