第199話・『今日のお出掛けは禁止、家庭では良くある事』

声がする、人間のようで獣のようで化け物のような声、聞いた事の無いソレに首を傾げる、女の泣き声では無いよな?違和感しか感じないぜ。


何だかわからない恐怖が人間にとって一番の恐怖だ、だから女の泣き声と確定させる事で無意識に恐怖を軽減させたのだろう、レクルタンと手を繋いで立ち上がる。


「んー?岩場に洞窟があるって言ってたけど行き止まりって、でもそこだよな、コレ」


「そうデスね、洞窟が拡張機の役割を果たしているようデス、二人一緒なら大丈夫デスよ、行きたいのでしょう?」


「う、うん、お母さんが吐血してくれなかったから誰のものでも良いな、血が見たい、血が」


「そうデスね、人間でも魔物でもエルフでも良いデス、赤ちゃんは綺麗なモノが好きデスものね」


「そぉなんだぁ、えへへ、女の子だもん」


「相手は何者かわからないデス、魔力を隠せるほどに器用な存在かもデス」


「わかんないもん、お母さんが殺して、俺、人殺し嫌い、あれ、好きだったかな、どうでもいいや、めんどいめんどいめんどいめんどい」


「面倒な事は全てお母さんに任せましょうデス、ふふふ、任せて欲しいデス」


銀朱(ぎんしゅ)の瞳が優しく細められる、それに死んでも大丈夫だしな、もし魔物に襲われて死んでも大丈夫、死ぬのは大丈夫だ、昔死んだけど今はこんなにも元気だもんな、れい、れい、死んだよな俺。


きくた、きくた、おまえにすてられてしんだよなおれ、かかか、かかか、どこかでみてるんだろ、おまえにきくたからおれをうばうくらいのどきょうがあればな、あれ、それはやだ、みんななかよしがいい。


「あれれ、う、上手く歩けない」


足腰に力が入らない、視界が激しく乱れる、そのまま倒れ込む様にして……お母さんにお姫様抱っこされる、あれ、場面が飛んだぞ?おかしい、時間がいつの間にか進んでいる、脳味噌が上手に動かない、うごけうごけ。


僅かな黄色が溶け込んだ白色の髪、卯の花色(うのはないろ)の髪が額に触れる、心配そうに俺をじっと見詰めている、額を重ねてどうしたんだろう??俺はこんなにも元気なのに、足も動かない、舌も回らない、でも元気だよ?


だって死んでないもの、死んでるのが一番ダメ、死んだら何も出来無いし死んでいなければ健康だもんな、ふふふ、だからそんなにそんなに心配そうな顔をして俺を見るなよ?て、照れるぜ、口の周りに泡が溢れる、それを舐め取ってくれる。


小さなピンク色の舌がチロチロと蠢く、あはは、可愛い、でもどうしてだろう?性的なものを全く感じない、ああ、俺の身を一心に案じてくれているのか?ごめん、頼りない子供でごめん、二人っきりのお出かけなのに上手に出来無くてごめん。


「おでかけ、おでかけ、おかあさんとおでかけするの」


「……エルフライダーの能力が暴走しているようデスね、情報を処理出来ずに先にこっちを落としましたか、もう一人の赤ちゃんなのかクロリアなのかわからないデス」


「おでかけ、あそこ、あのどうくつ、いっしょにいく、きっと、ものすごくたのしい、へへ」


「連れ帰るのもレクルタンの役割デスか、あの二人は何時も赤ちゃんに嫌われる行動を押し付けるデス、でも、本当の愛があれば可能デス」


「どこいくの?どうくつあっちだよ」


「……………」


「や、やぁ、い、いく、あそこいく、おうちまだかえりたくない!おかあさん、おかあさん」


「……………日を改めるデス、貴方の体調が一番デス」


「ひぃ、う、うそつき、うそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつき」


「その状態であまり喋ると舌を噛んで危険デス、ほら」


口の中に指を入れられる、咄嗟に強く噛んでしまう、お母さんはどうして嘘つきになっちゃったの?俺が良い子じゃないから?だからこうやってお家に連れてくの?た、楽しみにしていたのに、酷い。


恐慌状態で錯乱する俺をあやす様にして歩き出すお母さん、強く強く指を噛むと肉の繊維が切断されて何とも言えない感触がする、血の味、魔王の娘の味、ごくごくごくごく、夢中になってそれを飲み干す。


声がする、何だかわからない化け物の声、あの洞窟の奥から聞こえる!い、行こうよ、いこういこう、うそつき、きらいきらいきらいきらい。


「うぅ、ひっく」


「っっ、ごめんデス……体調が良くなったらお母さんと行きましょうデス」


「ううぅう」


あたまがいたい、ほしぞらがぐるぐるまわる。

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