第197話・『餌やり当番グロリアちゃん、餌は基本的にヒトガタ』

呆けたように笑うキョウさんを見て一部に取り込んだのだなと理解する、高位の魔物は幾つも取り込んでいるようだし多様性を得て幅を広げるのも重要です。


村人に感謝されても事を成したのは全てキョウさんですしね、ご馳走を振る舞われてもキョウさんは一人で食事をする事が出来無い、小屋に戻って世話をする。


エルフの村まで急がないとそろそろ危ない、意味不明な単語を呟きながら徘徊するキョウさんを見て強く思う、しかし時折正気に戻る、まるで病のソレだ、ある意味では病よりも厄介だ。


これがエルフライダーの性質なのだから、しかしここに来て移動速度が遅くなる事はかなりの痛手となる、僅かな間でも正気に戻ってくれて良かったと先を急ぐ。


「頭イテェ、酒飲み過ぎた」


「調子に乗り過ぎですよ、褒められて嬉しいのはわかりますが浮かれ過ぎると足元見られますよ」


「グロリアがいるから大丈夫だろ、へへ、良い酒だったな」


「頼りにされるのは嬉しいですが酔っぱらって若い男の子に抱き付くのは止めて下さい、不快ですので」


「あ、う、うん、睨むなよ」


「お土産にと少し頂いたので次の宿泊先で私と二人で飲みましょうね、二人っきりで」


「お、おう」


蛙を前にした蛇のような気持ちでキョウさんの体を舐め回すように見詰める、山を抜けて海沿いの街道を歩いているのだが太陽の日差しが強く海風も強い、体力が失われるのを感じる、何だかんだで昨日は羽目を外し過ぎましたね。


海沿いの森で暮らすエルフ、穏やかな日々を過ごしているのでしょうが許して欲しい、私の可愛いキョウさんが空腹で死にそうなんですよ?エルフでしか栄養を補給出来無いそんな生き物、肉体的にも精神的にも容易く限界を迎える。


エルフライダーの生態を観察して一つだけ理解した事はキョウさんの習性はこの世界の常識から大きく逸脱している、エルフライダーにとって全ての知性ある生物は餌であり友になる事は不可能だ、好意を持った人間を選んで捕食する。


私に手を出さないのはそれを凌駕する程の愛情があるからだと自覚している、しかし半端な好意はキョウさんの欲求を刺激して捕食行動に走らせる、それと同じように自分を傷付ける脅威に成り得る相手も好んで捕食する、好意と敵意が大好物だ。


それらはキョウさんにとって己の命の糧と成り得るものだ、だけど栄養価は満たされていない、やはりエルフこそが本命なのだ、エルフでキョウさんに好意や敵意を持っている存在がいればかなりお腹が満たされるでしょうに、好意を持たせる事も敵意を持たせる事も簡単だ。


少し細工でもしましょうかね?


「そんなに睨むなよ、あんなの軽いスキンシップじゃん、グロリア以外の存在なんて興味ねーぜ」


「そう、でしょうか」


「そうだよ、疑うなよ、ふふ、嫉妬しているグロリア面白いっ、可愛いっ」


「ぶん殴りますよ」


「な、何だか最近面倒になるとすぐに暴力に頼るの止めた方が良いぜ?」


「最近お酒が入ると自分より年下の男の子に抱き付くキョウさんも色々考え改めた方が良いですよ」


「は、はーい」


返事は素直だけどソレを覚えるだけの知性が足りない、男の子にトラウマを植え付けてどうするんですか?キョウさんは可愛いモノが大好き、そこに性別の垣根は無い、そろそろ躾をしないと間違いが起こりかねない。


女の子のキョウさん……しっかりして下さいよと心の中で吐き捨てる、キョウさんがここまで自由に振る舞えるのも彼女が容認しているからだ、自分自身に甘過ぎるのも問題ですね、その役をするのは本当ならしたくない。


「もう少しで着くか?」


「ええ、旅人を装って村に侵入しましょう、排他的なエルフが多い中で人間と商売をする程には開けた村らしいので」


「へえ、そこら辺に飯が転がっている状況に自分がどうなるのかわからねぇ、暴走したらグロリアが躾けてね?」


「私が、キョウさんを、躾ける?」


「そうだよ、グロリアが躾をしないとね?グロリアの望む俺に変わるから、ふふ、そうしたら男の子にも抱きつかなくなるかも」


鈴の音を転がすような笑い声、吸い込まれそうな瞳、キョウさんに魅入られている私を嘲笑うように小さな鼻をくんくんと鳴らすキョウさん。


「ああ、エルフの良い匂いだ」


螺旋を描きながら狂気に支配されるキョウさんの瞳が私に伝染するかのように心に訴える。


餌やりをしないと、飼い主なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る