第195話・『幼女乗り物』
世俗に汚れていない魔物の少女は新鮮で美味しそうだった、山を駆けていた強靭な脚力、しかしそれが無ければ人間と大して変わらない。
精神に干渉して来ようとしたがエルフライダーの能力でねじ伏せる、既にこいつの能力は俺の支配下に置かれた、んふふ、白髪なのが気に入った、キクタのようだ。
人間に化けているわけでは無く最初から人型の魔物……高位の魔物だが魔王軍の幹部ってわけでは無さそうだ、記憶を読み込んでも四季が廻る美しい山々の光景が映し出されるだけだ。
この山でずっと生きて来たんだな、体をくの字にして小刻みに震える魔物を見詰める、幼い魔物だ、人外は幼い容姿をしたモノが多いが彼女は本当に幼い、見た目の年齢のまま10歳ぐらいだろう。
着込むのは樹皮衣で簡易的で実用的だ、集落から奪ったものだろう、オヒョウやシナノキの内皮繊維で織られた衣服だ、魔物が着込んでも違和感が無い、ふふ、そもそも見た目が人間だものな。
「え、あ、、おかしイ、おかしイ」
「おかしくないよぉ、おれののりものになるんだから」
クスクスクス、血涙を流しながら抵抗する幼い魔物を見て笑う、呼吸もままならないのか息苦しそうだ、支配されているのに支配されている自覚が無い、こんなにも無垢で穢れを知らないのだ、虐めたいのぉ。
逃げ出そうと必死で四肢を動かしている、魔物、それこそ獣だなと苦笑する、真っ白い髪は腰まで伸ばしていて一本の紐で無造作に括っている、白髪だが光沢があり動物の毛並みのように鮮やかに輝いている。
何時もの様に人間の食べ物を奪いに来て何時もと違う何かに捕食される、これこそ自然界だ、自然界の掟は厳しいのだ、かわいそう、かわいそう、かわいそう、おれにであってかわいそう、どうしようもなくかわいそう。
かわいいそ、そ、可愛い、可愛いいいいいいい、これ、こで、これおれのなの。
「にげれないぞ」
「ヒィ」
「にげていいよ、おいかけっこ」
「や、やめロ、か、帰しテ、お家に帰ル、みんなが待ってル、許しテ」
「許す!許すよぉ、何を許すんだっけ、この泥棒猫、にゃんにゃんにゃん、さあ、改造しましょうねェ」
屈む、前髪を掴んで顔を上げると中々に美しい顔、んふふふふ、おれのほうがかーいーよ?調子にのるなよ、ブスッ、じりりりりり、透明な触手で背中を撫でると奇妙な声を上げる、獣と同じ縦に割れた瞳孔が俺を見詰めている。
魚の皮で出来た靴が御洒落で可愛いが必死に逃げようとしたせいで穴が開いているなあ、後で直してあげよう、産卵後の鮭の皮は様々なモノに加工出来るから獣の少ない地方ではありがたがる傾向がある、ここは大丈夫だろ、目の前に獣いるもん。
俺も売り物として加工した経験が、いや、ちがう、だれかと、そう、けものがすくなくてくつがこわれてこまってて、だれかといっしょにつくったんだ、ああ、だれとつくった、そう、あくとつくった、だいすきな、え、何だっけ、何だっけ、何を考えた?
そうそう、昔作ったんだ、丁寧に剥ぎ取った皮を皮の水で綺麗にに洗って脂肪を落とす、さらに屋根の上に置いて四~五日間干し続ける、完全に乾燥させるのが重要で雨の日は室内に戻して欲し続ける、水分がある内はカビが生えやすいので気を付ける。
さらに靴にする時に人肌程のぬるま湯につけてほぐすように丁寧に洗う、そして背ビレの部位が靴底になるように調整して大きく広げる、その際に尾ビレの方が後ろになるようにまた調整する、その上に足裏を置いて爪先の方からゆっくりと順々に足に合わせて折り曲げる。
さらにそれから足の甲に被せる、角が出ないように気を付けながら足首の後ろの方に立ち上げる、足の甲には別に用意していた皮を上から覆うように貼ってゆく、その皮の余分な部分を丁寧に切り落としてから形を整えて縫い合わせて完成。
『上手に出来たじゃねぇですか!ふふん、べ、別に尊敬してるわけじゃねぇですよ!』
声が聞こえた。
「おうちにかえれないよ、おまえがいなくなるとあくがいなくなるとひとりになるもん」
「か、帰しテ、もう、人間を襲わないかラ」
「おうちにかえれないよ、ひとりはいやだから、そのくつもなおしてあげる」
「かえ、し、テ」
涙と鼻水で塗れた少女の顔を覗き込む、帰る?こいつは俺に所有物だから返すが正解だろうに、でも返せない、だってこいつは俺の持ち物だもの、少女にしては凛々しい顔をしている、きっと名のある魔物の子孫なのだろう、いやぁ、めでたい。
こいつの記憶の中には沢山の仲間たちの笑顔で溢れている、それを全て俺の笑顔に書き換える、世間を知らない無垢な脳味噌は簡単に俺の侵入を許す、透明の触手を細分化させて鼻と耳と口の穴から差し込む、うーん、中の湿気がきもちいいいいいいい。
んふ。
「て、てぁ、て」
「かわいいかわいい、さあ、跪いて跪いて、お前は俺の、おれの」
「の、で、ものでス」
「そう、さあ、お前の家まで案内してね、お腹が空いてるの、お前は一部にしてやる、お前の仲間を俺と一緒に食べよう」
「べ、まス、言うとおりにしまス」
「お名前は?」
「クアクで、ス」
アクに似てる名前、代わりに使ってやる。
代替品。
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