第193話・『キョウちゃんはキョウに優しい、果てしなく』

グロリアに耳元で囁かれる度にキョウの凶暴性は増幅する……キクタも傷が原因で眠ってしまったしキョウの空腹も限界だ、さらに呵々蚊を見失った事でより心が不安定になっている。


キクタと呵々蚊と一緒にあの路地裏を飛び出たかった少女のキョウ、だけどそれを告げる事無く死んでしまった………その心の傷がキョウの精神を大きく揺さぶっている、湖畔の街は赤く紅く染まっている。


夕焼けよりも濃い赤色の空、鮮烈な色合い、全てが赤く血に濡れて歪んで壊れて腐っている、キョウは血涙を流しながらキャキャと笑っている、甲高い気狂いの声、その声に触れるときっと誰も彼もが同じように笑う、嗤う。


楽しそうなキョウを見詰めながら私は微笑んでいる、今のキョウは単純な思考で構成されている、キクタも呵々蚊も殺すと叫んでいる、絶叫、悲鳴、歓喜の声、自分が捨てられたと思い込んでいる、心は幼く幼く凶暴性は増している。


「あ、あはは、あぁ、キクタ、キクタ、ここかな」


ふらふら、夢遊病者のような足取りで湖畔の街をさ迷い続けているキョウ、漬物石をどけて樽の中身を確認している、もはや常人の思考では無い、そのまま数分立ち尽くした後にまた行動を開始する、キクタ、傷が無ければすぐに駆けつけたいだろうねェ。


それでキョウに殺されるつもり?お前はお母様に対する切り札になりつつあるんだから単純な感情だけで行動しないようにね、キョウはキクタと呵々蚊を殺したくて仕方が無いらしい、ふふ、湖畔の街にあるオリーブ畑の横に大きな穴を掘っていたもんね、手で犬かきのようにしてさ。


「んんんん、キョウ、キクタしらない?しってると、ん、おしえてほしいんだ」


「ごめんねェ、知らないねェ、んふふ、キクタに用事?」


「うん、埋めるんだ、生きたまま、呵々蚊も、宝物は閉じ込めとかないと、閉じ込めて、会いたい時に掘り返すんだァ、くふふ」


「そう、それは楽しいねキョウ」


「あーあー、あ」


「大丈夫?ちゃんと穴は掘れた?」


「み、見るか?キョウになら見せて上げるっ、埋めるんだ、あっ、俺と一緒に埋まるか?」


「ふふ、グロリアじゃなくて私で良いの?」


「ぐろ、りあ、しゅき」


記憶が混濁している、前世の記憶と失われた記憶が今の記憶に覆い被さってキョウの精神を歪に変化させている、この状態で覚えているだなんてよっぽどグロリアの事が好きなんだね、好き好きと短く呪文のように何度も呟く。


かつて部下子にしたようにアクにしたようにクロカナにしたようにもっと昔にキクタにしたように呵々蚊にしたようにレイにしたように、キョウがこうやって好きと囁けば誰も彼もが狂ってキョウに依存してしまう、生死を超越してまで求めてしまう。


グロリアは全てに対して超然としているがキョウの毒はどうなのかなあ、エルフライダーの能力では無い、キョウ自身の持つ魔性の魅力、他者を狂わせ依存させ愛させて永遠を望ませる、お母様に本当にそっくり、可哀想なキョウ、何処までもお母様に似たキョウ。


「しゅきぃ」


「ふふ」


「きょうもしゅき」


「本音で語られるのは嬉しいねェ、んふふ、現実世界では丸まって寝ているようだし、少しは体力を回復出来るかな」


「きくたはかかかはしゅきだからころすの、えへへ、あなもあるよ」


糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている、汗で濡れた髪が白い肌に纏わりついていて幽鬼のようだ、死臭がする、死んだあの日に戻ったようだねキョウ。


豪華絢爛な着飾る必要も無い程に整った容姿を無垢な精神が歪ませている……時折あーとかうーとか意味の無い呟きをする、瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている。


美しい色違いの星から涙を垂れ流してキョウはえへへと笑う。


「きくたぁ、でておいでぇ」


「ダメだよ、傷を回復させてるからねェ」


「ええええええええ?しょんなのないぜ、かわいそう、きくたをきずつけるなんて、ころすころすころす、かわいいきくたを」


「そのキクタをキョウは殺したいのにキクタを傷付けられて怒ってるんだ?」


「わかんない!へへ」


「ふふ、現実世界で例の魔物が現れたみたいだよ?私が一緒に行こうか?」


「うん」


ふふ、人型の魔物のようだよ?餌になるかもねェ、んふふ。

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