第191話・『主人公の愛は重い』
勇者の元仲間を捕食する事に失敗したばかりか俺の過去の関係者っぽい上にド変態だった事をグロリアに報告する。
グロリアはそうですかと短く呟いて許してくれた、どうして突然いなくなったのか問い掛けたら秘密ですと薄く微笑んだ、あの店はどうなるんだろうか?
キクタ曰くあいつはこれからも俺に干渉してくるらしい、グロリアが危ない?あいつは俺の大切なモノを破壊するのが好きらしい、キクタもそうなのか?問い掛けたら何れキョウを内側から破壊するモノは排除すると呟いた。
うーん、わかんねぇ、グロリアがそろそろエルフの一人でも捕食しますかと笑顔で提案した、宇治氏が計画を進めている村では無くさらに秘境の村、うん、あの変態ロリを食えなかったせいかお腹が空いている、殺して軽く食うつもりだったのに。
「そのエルフって特別なエルフなのか?」
「いいえ、森で暮らす普通のエルフですよ?キョウさんも変なモノばかり食べてないでそろそろ普通の食材を食べましょうね」
「エルフは普通のご飯だもんな」
「ええ、普通のご飯ですよ」
何だか少し違和感があるが気にするのは止めよう、エルフが住む森へと続く道を歩きながら欠伸を噛み殺す、普通のエルフって食べた事あったっけ?キクタは少し特殊だし炎水は人工的に生み出されたエルフだ、両方とも普通とは言い難い。
少しだけ興奮して来た、むふーー、鼻息が荒い俺を見て苦笑するグロリア、しかしあいつは強かったな、あそこまで攻撃を避けられたのは初めてだ、キクタを傷付けた罪は償って貰わないと駄目だけどどうしてあんなに幸せそうだったんだろう?
美しい容姿をした少女だったが変態だったしなァ、街路の幅を拡張している職人達が汗水流して作業している横を頭を下げながら横切る、直線化が推進されている昨今、仕事があるって幸せだよなぁとオッサン達の顔を見る、日焼けした赤ら顔は労働の喜びで満ちている。
視線があったので手を振るとさらに顔を真っ赤にして可愛い。
「んふふ、かわいい」
「キョウさん、サービスし過ぎですよ、仕事にならなくなったらどうするんですか?」
「んー、手伝う?」
「バカ言わないで下さい、素人が混ざっても邪魔なだけですよ、相手は男性なんですからもっと気遣いをしなさい」
「うー、別に手を振っただけだし、いいじゃん、みんな嬉しそうで」
「作業能率が落ちます」
「うーうーうー」
「唸るのを止めなさい、それ、恥ずかしいですよ」
「むぅ」
青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が探るように静かに細められる、最近のグロリアは妙に五月蠅い、色々と注意されると逆にしたくなる!!グロリアだって俺がいないと愛嬌を振り撒いて男女構わずに骨抜きにするのに。
俺がするのがダメで自分がするのはオッケーっておかしくないか?ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながらグロリアは足早に先を急ぐ、オッサン達とお話したかったのに意地悪だ、職人さんのお話は面白いのになぁ、残念。
土のままの悪路だがコレも何れ舗装するのかな?昨日の雨で泥濘が酷い、転ばないように意識しながらグロリアに続く、グロリアって背筋はピーンと伸びてるし歩き方も颯爽としているし凄くカッコいいよなあ、背中をポケーと見詰める、あ、遅れる!
「逃げた変態が俺だけじゃなくグロリアも狙うかも」
「へえ、その時に食べれば良いじゃないですか」
「で、でも強いぞ?グロリアも怪我しないようにするんだぞ?」
「ふふ、わかりました」
「ちゃんとわかってない感じの言い方だっ!」
「おやおや」
街から街の交通の手段としても使っている道なのにどうにも感じが悪い、先程の職人たちが舗装していた場所はまだマシだったなと溜息、陸上交通を妨げる悪路は旅人にとっては煩わしいモノだがそこに住む人々からしたら中々にありがたいものなのだ。
先程の補修も幅を広げる為のモノで地面を舗装して固めるものでは無い、何故なら交通路を頻繁に補修しても地域の住民の利益にはならない、よそ様の職人達ならまだしも実際に住む人々には何の利益にもならないのだ、あの職人達はこの土地の領主に雇われたのだろう。
幅を広げて行き来する馬車の数を増やすのが目的、しかし悪路である事は変わらない、地面そのものを舗装しない理由は地面の状態が悪ければ悪い程に利益があるからだ…………替え馬の都合を付ける、馬車の修繕や装蹄などの作業を必要とする、冒険者は旅の中断時にお金を落として行く。
「世の中って面白いよなぁ、悪路は悪路で人の助けになってるんだもんな」
「エルフライダーもそうかもしれませんよ?人間の社会にとっては必要とされない存在ですが広い視界で見れば世の為になっているのかも」
「嘘だぁ、はっ?!俺を持ち上げて………胸を触りたいんだな?やだよ!」
「真面目な話ですよ?」
「でもさ、平和に暮らしているエルフの村に忍び込んで美味しそうな餌を選んで捕食する行為の何処に正義があるんだ?」
「へぇ、何か思う所が?」
「無いよ、でもそうしないと生きていけないもん」
人間がご飯を食べるように俺は他者を食らう、それは世界にとって決して正義とは言えない、でもカエルがゲコゲコ鳴くように鳥が空を飛び回るように生物としての機能や生理が俺にソレを促す。
この気持ちを理解出来るのは同じ生き物のキョウとお母様だけだ、グロリアにもキクタにもみんなにもわからない。
「見捨てないでね、見捨てたら酷いよ」
「キョウさん」
グロリア、わかってるよね。
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