第190話・『変態革命殺人恋い焦がれ幼女、取り敢えずさようなら』
キョウは悪く無い、全てを忘れてしてしまうのは本人のせいでは無い、エルフライダーの生き物としての習性がそうさせているのだ。
キクタのような姿、何かが混ざっている、キョウが混ざっている、幼い姿をしたソレは魔剣に生まれ変わろうとしている剣を振り回しながら笑う、まだ死ぬわけには行かない。
出鱈目な攻撃は軌道を読みやすい、キョウはエルフライダーの能力によって経験も技能も失っている、純粋な殺意のままに適当に剣を振るうのだがその威力が凄まじい、壁に立て掛けている魔剣を粉砕する。
剣が剣を粉砕するなんてあり得ない、同質の素材であれば互いに欠けるし片方が優れた素材で生成されていても刃先が薄く脆いのはどうしようも無い、鉄に当たれば罅割れるのは道理、だからこそ人間を直接殺す事に意味があるのだ。
キョウの剣はどのような魔剣だ?
「しね、しねぇ」
「っ」
「死なないなぁ、どうしてだろ、キクタの体を使っているのに混ざっていて上手に扱えない、ふふ、俺はキョウなのかキクタなのかな」
「キョウ、アタシがしようか?こいつ、逃げ回るのは上手だからね、昔から卑怯者なのよ、アタシとキョウに嫉妬ばかりして」
「ふーん、でも俺はこいつ知らんぞ」
「だったら殺す時に心が痛まないから大丈夫ね、キョウはすぐに傷付くから」
「わはは、ガラスのハートだぜ」
入れ替わりでキョウとキクタが表に出る、愛する二人が一つの肉体に同時に存在している、キクタとキョウの混じり合った美しい姿をした少女は大剣を振り回しながら前進する。
二人が協力して呵々蚊を殺そうとする光景に感動を覚える、え、あの二人が、互いに互いを一番としていた二人が呵々蚊だけを見てくれている、在りし日の幻想が実現したことに感動を覚える、頬から血が滴り落ちる。
絶望的な状況だというのに感動を覚える呵々蚊、大好きだったキョウ、大嫌いになってしまったけどかつては大好きだったキクタ、その二人に同時に求められている現実が呵々蚊の心を大きく揺さぶる、こ、これナァァー。
「あぁああ、ふ、二人が、み、見てくれてるナー」
「キクタを傷付けた罪だ、ダルマにしてちゃんと起き上がるまで調整してやる」
「キョウが望んでいるの、昔の仲間でしょう?アタシたちの望みを叶えさせてよ、死んでよ」
「な、ナー、なぁぁ」
「「キモイ」」
二人に心から求められている、キョウは呵々蚊にだけ使命を与えてくれた、自分が自分で無くなっていたら殺して欲しいと、しかしその望みは潰えた、表面の記憶が塗り替えられようとキョウはキョウだ、生きようと必死だ。
そしてキクタもまたキョウの一部として正常に稼働している、やはりお前はキョウにとって特別なんだナー、記憶が塗り替えられようが忘れられようがキョウはお前を必ず好きになる、羨ましいナー、嫉妬するナー、妬ましいナー。
だからこそお前に憧れた、だからこそキョウに特別な使命を与えられた時に優越感で幸せに満たされた、だけど結局はお前とキョウの絆を強くする為の盛り上げ役にしかならなかった、だけどここに来て最高の一手、二人に望まれる関係になった。
キョウが呵々蚊を殺したい……キクタはキョウの望みを叶える為に呵々蚊を殺したい、二人は呵々蚊を見てくれている、もう仲間外れの恐怖に怯えなくて良い、だから望むべきはこの関係を維持する事、こ、殺したいと想い続けて貰う事っ。
「し、幸せナー、もっともっと呵々蚊を見てナー、二人で見てナー、か、可愛い二人のおめめで凝視してナー」
「避けるのが異様に上手いな、何だこいつ、変態幼女ってこんなにつえーのか」
「これでも勇者の仲間だからね、敵になるとここまでウザいとは」
「も、もっと二人で呵々蚊の事を語るナー、二人で呵々蚊の事を考えるナー、こ、殺しても良いよ?―――ふひ」
「うん、殺したい」
「ええ、殺したいわ」
「ふ、二人が見てるナー」
殺したいと呵々蚊を見ている、二人が呵々蚊だけを見てくれている、ああ、あの狭い路地裏を思い出す、色々とすれ違いはあったけど三人は再び一つになった、この時間を永遠に楽しむ為に思考しろ、ふひひ、幸せナー、物凄く幸せナー。
恋をした相手も恋敵もまとめて総浚いナー、二人は呵々蚊のモノだナー、わ、渡さない、この殺意を渡さない、殺される権利は呵々蚊だけのものナー、あああああ、そう、楽しむために逃げないと、そう、逃げるナー、お、追いかけっこだナー。
「ふひひ、この魔剣で」
「あん?」
「キョウ、早く殺さないとこいつっ!」
「キョウ、キクタ、大好きナー……もっと呵々蚊だけを見てくれるように、二人の大事なモノを壊してあげる」
キョウはあのシスター、キクタは?――――キョウそのものを壊すわけには行かない。
知ってるナー、もう一人のキョウを壊すナー、それもキョウだからキクタ好きだろう?
魔剣の効果で空間が歪むのを感じて最高の笑顔で二人とお別れした。
「またナー」
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