第189話・『結局はキクタを奪われてキョウも奪われた幼馴染』

キクタは俺のモノなのに、こいつは何をしている?キクタの内側からそいつを見ていると気が狂いそうなほどに怒りが溢れ出る。


クロリアが外に出ないように強制的に俺を精神の奥底へと沈めている、こいつ、この野郎、何故だかわかってしまう、こいつが俺にとってもキクタにとっても特別な存在である事を。


だけど拒否する、先程までの好意が反転して敵意へと変わる、こいつは俺に干渉してキクタを引きずり出した、まだ写し身に過ぎないが痛覚もある、キクタを傷付ける為に俺に干渉しやがった?


こんな奴にエルフライダーの能力を与えたつもりは無い、キクタは使っていいよ?クスクスクス、だって俺の特別だから、だって俺のキクタだから、でもこいつは違う、こいつだけは違う、キクタを傷付ける奴は俺が殺してやる。


ずっとお前に守られて来た、だから今度は俺がお前を守る番、強制的にキクタの肉体に干渉して具現化する、しかしどうも接触が悪い、キクタの容姿に俺の容姿が溶け合っている、純粋なエルフとシスターの細胞を持つ俺が溶け合う。


これはあまり良くないような?


「き、キョウ……キクタ、どっち?」


「うるせぇ、誰だ、記憶が混濁していてわかんねぇ、どうして俺はここにいる」


傷だらけのキクタの体を回復させる、じじっ、奇妙な音がする、耳の奥でハエが飛び回っているような不快な音、混濁した記憶が目の前の存在が何なのか教えてくれない、こいつは誰だ?どうして俺はここにいる。


工房のような場所、周囲には魔力を秘めた魔剣が転がっている、ああん?どうしてこんな所でロリ臭いガキにロリ臭いキクタが虐められてるんだ?わけがわからずに舌打ちしながら立ち上がる、足の方向がややおかしいが関係無い。


「誰だ、テメェ」


「き、キョウ、記憶がっ」


「お前がキクタを苛めたんだな、ふふ、じゃあお別れしなくちゃな」


ファルシオンを振り落とす、しかし転がるようにして避けやがる、んー、美味しそうな匂いがするけどキクタを苛めた奴は食いたくねぇわなぁ、怯えるかと思ったが頬を赤くしてこっちを見ている、興奮している?


その視線に違和感を覚えるがそんな事はどうでも良い、キクタを傷付けたこいつは俺の手で殺さないと駄目なんだ、キクタは色んなものを俺に与えてくれる、ふふ、キクタキクタキクタ、俺とキクタの細胞が溶け合った体は中々に良い。


「避けるなよぉ、殺せないだろ」


「キョウっ、キョウに頼まれて、だから、こ、殺してあげるよ?」


「あん、俺を?」


「そ、そう」


「俺を、俺を殺そうとする奴は殺されても文句は言えないんだぜ」


「え」


「ふふ、グロリアと結婚するまでは死ねないんだ、だからお前はやっぱり敵だ、よくわからん嘘を言う敵だ」


ファルシオンを振り回す、狭い部屋では中々に殺しにくいぜ?涙目になっている幼女を追いながら口元を緩める、こいつどうして反抗しないんだ?黙って殺されたいのかな?凄く不思議な奴だ。


紫檀(したん)や紅木(こうき)のように赤みの強い紫黒の髪がファルシオンの刀身に触れて舞う、魔剣に変化し出してから少しだけ切れ味が良くなったような気がする、魔剣、この工房にも魔剣が大量にあるって事はソレ繋がりで立ち寄ったのか?


すっぽりと抜け落ちた記憶に首を傾げる、宙に舞う髪があまりに美しかったので猫のような俊敏さで掴む、砂のように全てから零れ落ちるような極上の手触り、しかしまったく覚えが無い、こんなに美しい髪をした生き物を殺せるだなんてキクタに感謝。


「う、嘘じゃない」


「いいや嘘だね、だって死にたくないもん、死にたくない俺を殺そうとしている時点でアウトだろ」


「ど、どうして、どうして」


「俺を殺そうとしてキクタを傷付けた、それがお前の事実だろ?」


眉の上で一文字に切り落とされた前髪、腰の辺りで同じように直線に切られた髪、全てが整然としていて面白味の無いソレを振りながら嫌々と……何がしたいんだよ?


俺はお前を殺したいだけなのにお前は何がしたいんだ?


「どうして、どうしてキクタばかりっっ、特別扱いにしてっ」


「そりゃキクタが特別でお前が特別じゃないからだ、以上」


さあ、殺すか。

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