閑話145・『クレヨンで夢を描く』

私が色々と計画を練ったり勉強している間はキョウは大人しく絵本を読んでいるのが常だ、この前の自分を恥じる、な、何だか避けられているよねェ。


キクタに嫉妬する余りにキョウに酷い事をした、自分自身を恥じる、こ、好感度を取り戻さないと!優しい言葉と謝罪を織り交ぜてプレゼントを与える。


自分でも認めたくないがグロリアと私は似ている部分がある、人の心を掌握する手段に長けている、んふふ、私が外に出れるようになってからエルフをあれだけ食い漁る事が出来たのも言葉巧みに事を進めたからだ。


故に手段も自然と似てしまう、キョウが不機嫌になったのでキョウにプレゼントを与える、ふ、不機嫌というかアレだね、あのビクビクした瞳で見られるのは正直キツイ、な、泣きそうになる。


「すごいぞ、これはすごい」


「キョウ?」


「すごい」


「き、キョウ………少しは相手してくれないと私寂しくて死んじゃうかもだよ」


「すごい」


「う」


「すごくきれいだ、ふふ」


「キョウぅ」


何時もなら部屋の隅で絵本を読んでいるが今日は違う、私が与えたクレヨンを持って白紙に絵を描いている……自分が与えたものに嫉妬する事になるだなんて思わなかった、集中した顔で様々な色合いのクレヨンを使ってお絵描きしている。


グロリアは絵が上手だもんね、だから何処かで憧れていたのだろう、与えた途端にずっとコレだ、そして私は無視をされている、キョウは無自覚に私を無視していて泣きそうになる、昔から一つの事に集中するとコレだ、ドラゴンライダーに憧れるのもこの気質からかな?


キョウの頬を抓って苛めたのは他でもない私だ、罪を甘んじて受け入れようとして既に三時間以上経過している、キョウが描いた様々な絵がそこら辺に散らばっている、それを無言で拾って整理するのが私に与えられたお仕事、うぅうう、む、空しいし寂しいよォ。


だけど夢中になっているキョウを見るのは楽しい、楽しいけど寂しい、表に出る事が出来無かった頃は何時もこんな感じだったけ?闇の中から元気に飛び回るキョウを見詰めていた、キョウが無意識で切り替われるようになるまでかなりの時間を必要とした。


「おれは、ぐろりあ以上かも」


舌足らず、既に男を誘惑できる体をしているのに表情も思考も何処までも幼い、グロリアの餌に偏りがあるせいなのかキョウ自身が幼い時に戻りたいのかそれはわからない、部下子やアクを失ってからは何処か気張っていたものね、記憶は無くても自然とそうなってしまう。


あの村ではキョウが甘えられる存在はいなかった、奇異な視線で見られるし何より前世で負った心の傷や部下子を失った悲しみのせいで人付き合いが苦手になっていた、元々はあの狭い路地裏で学も無く弟を生かす為だけに働いていた少女の魂だ、強いようで脆い。


キョウはお母様に似ている、地上で汚れて壊れて狂って生きている、だからこそお母様は狙っているのだろう、魂や肉体の境界を外して自身に取り込む境界崩しとも呼べるエルフライダーの力を欲している、そして一つになろうとしている、させないけどねェ。


「キョウ、いる?!」


「い、いるよぉ、さっきからずっといるよォ」


「これ、これ、上手に描けた」


「………これは」


「ふふーん、グロリア超えちゃったかもな、やっちゃったかもな」


な、何だ?これは何だろう?絵が下手なわけでは無い、勿論グロリア以上だなんて事は絶対に無い…………そもそもグロリアはプロの美術家として大陸に名を響かせている、本人は何でも無い事のように口にするが功績そのものを否定するつもりは無い、まあ、凄いよね。


キョウが描いた絵を見詰めながら首を傾げる、に、二回もキョウを傷付けるわけには行かない、だけどわからない、しっかりとした構図で描かれた絵だが色合いがあまりに禍々しい、ああぁあ、狙ったわけでは無く色んな色を使いたかったわけね、ふふ、キョウ可愛い。


可愛いけど私ピンチだよォ?!


「なぁなぁ、可愛く描けただろ、んふふ、おめめを描くのに苦労しました」


「そ、そぉだね」


可愛く?人物か動物か?いやいや、恐らく人物だろう、暫く見詰める、キョウが描くって事はキョウの知っている人物だよね、キョウは自分に興味の無い人間を容易く切り捨てる癖がある、誰かに愛して貰わないと愛せない歪みを持っている。


だからこそ僅かな好意を向けられただけで100パーセントの好意で向き合ってしまう、ええっと、つまり絵に描く程だからとても好きな人物って事、あっ、もしかして自分自身?さ、左右の目の色が違う、や、やった、これだ。


「キョウは元が良いから可愛く描けたねェ」


「ちがうよ、おれじゃないもん」


「え」


「キョウをかいたー、くれよんありがとぉ、おれい」


ニコニコ、ああ、そうだね、私も左右の目の色が違うものね………なんだろう。


「き、キョウ」


「なぁにぃ?」


「すき」


「…………は!?く、クレヨンはかえせないぞ」


クレヨンはいらないからね、その絵を頂戴。

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