第187話・『嫉妬に狂う幼女はヤクザキックでエルフを壊す』

「出て来いよ、卑怯者」


吐き出すように口にするとキョウの体が大きく震える、人間が別の人間に入れ替わる様は見ていて飽きない、しかし呆れる、呵々蚊と一緒にあの路地裏にキョウを見捨てた同胞。


こいつが誘ったから呵々蚊は生涯後悔する事になった、何よりキョウに彼女を頼まれた、しかし彼女は悪く無い…………幼いが故に優先順位をきちんと確立していなかった、呵々蚊の罪も消えない。


吐瀉しながら両足を面白い程に痙攣させて震えるキョウ、血走った瞳は虚空を見詰めている、認識していない一部に体を明け渡すのは辛いだろうに、しかも本体は別の所にいて写し身を肉体に反映させるのだ。


「ぎぁぁ」


「出て来い、キクタ」


「ァァ、ぁ、きざ、ま」


「貴様、か…………どうした、久しぶりの再会だ、キョウの肉体を使わせてやってるんだ、ふふ、まだ呵々蚊の命令は通るようだな、命令、いや、頼み事か、相変わらずキョウは愚かな程に優しい」


「かか、かぁぁああああああああ」


犬歯を剥き出しにして吠える様は獣のようだな、そうか、獣の細胞も入っているのか?リンクが途絶えてしまった現在ではキョウの状況を把握出来ない、ふふふ、相変わらず小さくて幼い勇者様、愛する姫を見殺しにした我らの勇者様。


あの路地裏を飛び出た後も、彼女が死んだことを知った時も呵々蚊だけ知らなかったよ、お前がキョウとそのような関係になっていた事を、お前がお前がお前がお前があ、お前がキョウを自分のモノにしていた事も知ら無かった、ふひ、ひひ。


強制的な具現化は羽化の前ではキツイだろう、呵々蚊も経験がある、何せ一部だった過去があるからナー、おっとと、キョウと過ごしていた幼い時の口調になってしまう、白目を向きながら床を這い蹲るキクタを乱暴に蹴飛ばす、変異はまだナー?


「か、呵々蚊ぁぁ」


「おはよう、キクタ、キョウと一緒に過ごす時はどうナー?何を企んでいる」


「う、裏切り者がぁ」


「裏切り?キョウが呵々蚊に永遠に殺してと頼まれた事ナー、ふ、ひひ、お前は信用されていないから頼まれていない、同様にレイもナー」


強制的に引き出してやっているのでかなり苦しそうだ、ふひ、キクタが目の前に具現化している事実に心が高揚する、キョウを殺して上げる前にこいつをボロボロのズタズタにして罪を自覚させよう、お前は、お前はキョウを抱いていたんだろう?


あは、あのうす暗い路地裏で既に宝物を見付けていたはずなのに増長する欲望のままにキョウを見捨てて外の世界に飛びだった、呵々蚊は知らなかった、お前たちの関係を知らなかった、キョウの親友なのにお前の友人なのに一人だけ輪の外にいたのだ、ナー。


嘲笑っていたんだろう?嫉妬に狂う胸中を救ったのもキョウ、ひひひ、はは、何度も何度もキョウに干渉していたのは貴様だけでは無い、そうだ、そうだ、殺すように頼まれた、いや、もっともっと、頭痛が激しくなる、そして気分は高揚する、愛した人の肉体に恋敵がいるのだ。


「裏切り者はお前だろう、ナー、ナー」


何度もお腹を蹴飛ばす、草履なのは失敗だったナー、赤ちゃんを産めなくなるまで破壊したいのにこれでは威力が出ないナー、きしし、倒錯した想いは呵々蚊の精神をあの頃へと戻す、この街で脳を洗って支配して崇拝されて組織を構成した、武器屋は良い隠れ蓑。


キョウはエルフライダーとして常にお腹を空かせている、ああ、だったら既に忘れてしまった一部に惹かれてこの街に来る事もあるだろうナー、呵々蚊はそんなに美味しそうな匂いがするナー?でも、もう食べられるわけには行かないナー、貴方を殺す役割があるのだからナー。


「キクタぁ、キョウの体は柔らかかったかァ、お前のお腹は痩せっぽちで蹴り応えが無いゾ、なあ、なあ、なあ」


「どう、して、キョウ、アタシと、同じように、忘れた一部であるお前なんかに権限を」


「キョウがお前なんかより呵々蚊を愛しているからに決まっているだろぉが、当然の事を聞くなよ、脳味噌腐ってんのか?にしし、ナー」


「く、そが、きょ、う、あたしの、もの、あたしの」


「お前のじゃ無いんだよ、間違いだったんだよ、間違いだったと言え、ナー」


初雪を思わせる白い肌を何度も何度も執拗に蹴飛ばす、赤黒く濁った場所を重点的に蹴飛ばす、それでも睨み付けるその顔はあの頃と同じ、エルフのガキめ、唾を吐き捨てながらも自身の嫉妬心をギリギリで制御する、まだあの剣は使わない。


特殊な方法でしか神の子は殺せないのだ……………キクタの姿に変化したとはいえ肉体はキョウのモノ、キョウが痛みを感じずにお前が感じているならそんな事はどうでも良いんだよ?少しずつ黒く濁った感情が浄化される、あああ、蹴飛ばして良かった、現在進行形で。


大きくまん丸い瞳は青みを強く含んだ紫色、春風の到来を告げる花を連想させる菫色だ、睫毛はくるんと上を向いていて眉毛も綺麗に整っていて生意気だ、こいつは何時もそうだった、あの路地裏の生き物の癖に美貌だけは完璧だった、キョウが見惚れる程にっ。


「お前の綺麗な顔を蹴れるのか、嬉しいナー」


「ぎっ」


「目ん玉いらんだろうナー、キョウに褒められていたよナー、綺麗だって、呵々蚊は褒められた事無いナー」


「いる、に決まってるだろぉ、キョウが、褒めてくれたのよっっ、いるに決まっている」


「お前、うるさい」


頭を踏み潰すととても良い音がした。

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